2009/11/26

Calling all cars

Calling all cars November 19th 2009
自動車のデータシステムにリモートからアクセス出来るようになる事で、様々な可能性が広がる

Science and technologyセクションから自動車に関する話題。最近の自動車は、ソフトウエアの固まりであると聞いた事があるが、自動車のシステムにリモートからアクセスする事で、色々な可能性が広がる事をこの記事は示唆している。

以下主なポイント

・これはカリフォルニアで起きた実際の話である。ある朝、自動車強盗がシボレーのTahoeを強奪したが、犯人は遠くには逃げられなかった。この車はテレメトリーシステムが搭載されており、連絡を受けたオペレータはすぐに自動車の場所を把握し、「エンジン停止後、エンジンの再始動を不可にする」という指令を送った。その後、警察が自動車を目視した後、「エンジン停止」という二つ目の指令を送った。これにより犯人は逮捕された。

・この"Slow down"機能はGMの”OnStar”サービスであり、実際に自動車強盗に対して発動したのは初めてである。OnStarは1996年にスタートしており、最初はロードサイドサービス中心だったが、徐々に機能が洗練されて行き、現在では北アメリカで600万人のユーザがいるサービスである。

・iSuppli社の予想では、2016年時点において新車の1/4がこのようなリモートモニタ&コントロールシステムが搭載されるとしている。

・これにより、自動車盗難が不可能になるだけでなく、何か事故が起きた際の緊急連絡も自動車自身で行えるようになる。

・ただ、最も重要な機能としては、自動車自身による"自己診断機能"およびそれに基づいたサービスとなろう。

・OnStarのユーザは、定期的に自分の車の状態をメールで受け取る事が出来る。これにより故障を未然に防ぐ事が出来、またこの記録を持つ事で、リセール時に自らの車が良好状態である事を示す事が出来るようになる。

・さらには車自身が自ら補修部品の発注を行い、修理工場についた時点で必要な部品が全て整っているという事も考えられる。このようなシステムは航空業界ですでに実用化されている。車の場合、故障しそうな部分を自己診断し、緊急を要する場合は、近くの修理工場の空き状態を確認した上で利用可能な修理工場へドライバーをナビゲートする事になるだろう。

・日産LEAFのような電気自動車にはこのようなテレメトリーシステムは非常に有用である。日産では、出荷するLEAFのすべてのテレメトリーデータをグローバルデータセンタに送る事を計画している。

・リモートコントロールを用いる事で、ドライバーが車に乗車する前に室内を暖めたり冷やしたりする事が出来る。このような機能は、電気自動車においてはプラグに接続されている駐車時において特に有用である。

・すでにiPhone用のキットを接続する事で、エンジンマネージメントシステムのデータを読み取る事が出来る製品がある。今後、リモートテレメトリーシステムが普及する事で、同じようなアプリケーションが多く開発される事になるだろう。

・車の車内をモニターするシステムを使う事で、誰が社内にいるか外から確認出来るようにもなる。疑り深い配偶者には便利なシステムだろう。

以上。

最後のオチはいかにもこの雑誌が好きそうな言い回しである。最初この話を読んだ時はナイト2000の世界がすぐそこまで来ているような気分になった。自動車自身が自らの状態を診断して部品発注まで行う事が普及するには社会側のインフラ整備が必要になるだろうけれど、そんな将来を想像するのはちょっと愉しい。ここ最近、自動車関連のネタは電気自動車に関連する話が多かったけれど、このような周辺系も色々と面白いネタがあるという事を気づかせてくれた記事である。

2009/11/21

Hey, big spender

Hey, big spender  November 20th 2009
どの会社が最もR&Dにお金を使っている?

Web版のDaily Chartから。


左の図は欧州委員会発表による2008年においてR&Dにお金を使ったTop10の会社のランキングとなる(原典はこのページと思われる)。これを見ると自動車会社(Toyota, Volkswagen, GM, Ford, Honda, Dimler)、製薬系(Roche, Pfizer, Johnson & Johnson、Novartis, Sanofi-Aventis)、IT系(Microsoft, Nokia, Panasonic, IBM)で占められている事が分かる。

また、国別で見ると米国(Microsoft, GM, Pfizer, Ford, Johnson&Johnson,IBM)、日本(Toyota, Honda, Panasonic)、ドイツ(Volkswagen, Dimler)、スイス(Roche, Novartis)、フランス(Sanofi-Aventis)、フィンランド(Nokia)となり、米国、日本、欧州の3地域で占められている。また、全体R&Dにへの投資としてはの傾向としては2007年は9%の伸び、2008年は6.9%の伸びとなるようだ。

個人的な印象としては、アメリカ企業が流石であるという事と、日本企業も結構頑張っているという事、また新興国(Emerging Countries)の企業がリストに載っていない事である。台湾、韓国、中国の企業がこういったリストのTop10に出てくるようになると、日本の企業もますます危機感を感じるようになるのかもしれない、などという事を感じた表である。

2009/11/19

High Speed Slide

High-Speed slide November 14th 2009
優秀なトレーダーにとって良い事は、マーケット全体から見たら悪影響?

Finance and Economicsセクションのこの記事は、アメリカの証券市場が自らの競争力を高める為に行った施策が、結果的に証券市場を細らせている可能性があるとの指摘である。

主なポイントをまとめると以下の通り。

・今年アメリカにてIPOした会社は50社あるが、これは上場企業の数を維持する為に必要な数の1/7でしかない。図を見る限り、アメリカにおける上場企業数の減少は、多の地域と比べて明か。

・上場企業数の減少は1990年代中頃から行われ、これは規制緩和による証券市場の低コスト化、効率化と一致していが、証券市場全体のEcosystem(小さな企業を上場させ、大きな会社に育てて行く過程)に予想もしなかった副作用が起きた。

・コンピュータを駆使した”high-frequency(売買を頻繁に繰り返す)”トレーダーは、株式の流動性を重視するため、小型株に興味を示さない。同様に流動性に対して意識が高い機関投資家も同様の傾向を示しつつある。

・一方、Index投資がはやっている事と、投資銀行業務からの利益をアナリストに援助する事が禁止されている事もあり、多くのアナリストの分析が大型株もしくは取引が頻繁に行われている株に偏っている。→小型株の分析は殆ど"蒸発寸前"である。

・魅力ある証券市場でありつつける為の解決策としては、手数料固定である程度の取引制限を設けかつつ、企業リサーチに補助金を出す市場の創設もしくは、IPO以前の会社に対してより規制を緩和した市場の創設といった大きな変革が必要であろう。

以上。

アメリカにおいて上場企業の数が減っているという減少は知らなかった。証券市場を強化するための手段として行った事が、結果的に証券市場に対してダメージを与えているという結果はとても皮肉に思える。この話を読んだとき、システム開発に携わっている人が「常にユーザーは開発者の思惑を超えたシステムの利用方法を思いつく」という発言をした事を思い出した。上に書いてあるような事態は開発者(立法者)が開発当時(規制緩和当時)は思いつかなかった事象だろう。もちろん90年代後半からのIT革命も大きな役割を果たしているので、規制緩和時点で全ての要素を考慮するのは難しいと思うのだが。なおHigh Frequency Tradingについてはぐっちーさんの解説が参考になる。

一方で、システムトレードが発達した結果、大型株に多くの注目が集まり小型株に目をかける人がいなくなるという状況は、見方を変えると小型株の企業価値を測る事が出来る投資家にとっては非常に大きなチャンスという事になろう。

「市場を味方に付ける」とはバフェットの言葉だと思ったが、まさに如何にして市場を自分の味方にするか?という事を考えるきっかけとなる記事である。

2009/11/17

Interlude 20091117

間に別記事が挟まっているとはいえ、企業価値評価としては前回のトーセから今回のインテージまで一ヶ月近く間が空いてしまった。日々が過ぎるのは非常に早いものである。当初は月に二社ぐらいのペースでアップ出来れば良いと思っていたけれど、継続するのはなかなか難しいものだ。また、このまま続けていると、何処かの時点にて以前作成したレポートのフォローアップを行う必要が出てくるかもしれない。この点についてはまたそのうち考える。

ここでは企業価値評価がコンテンツのメインではあるが、思いつきの企画として普段読んでいるThe Economistの記事の中で、面白そうな記事があればここで紹介してみようかと思う。幸いにも同雑誌には”Business”、”Finance and Economics”というセクションがあるし、"Science and technology"のセクションも日本の新聞等では見ないような記事が多いので、ネタを探すのにはそれほど困らないだろう。

先日のクラウドコンピューティングに関する記事をまとめる際に気がついたのだが、ただ読んでいると何となく流してしまう事があるが、アウトプットを意識しながら読む事でより注意深く読む事が出来るし、アウトプットする事で後からの参照が容易になる。という訳で、これは読んだ人にも役に立ち、なおかつ自分自身に対する勉強になる事を意図している。

これが単なる企画倒れになるか継続したコンテンツになるかは、本人のやる気次第だろう。

"企業価値評価"、"The Economistの紹介"ともに非常にマニアックなコンテンツのblogではあるが、何かの縁でここに来てくれた人に、少しでも役に立つ事があるような場所を目指したいと思う。

株式会社インテージ(4326)

1.はじめに
本レポートは株式会社インテージ (証券コード:4326)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年11月中旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2.要旨
株価 1,565円(2009年11月16日終値)に対し、理論株価は 2,259円となり乖離率は44%となる。この株価は、同社が主に属する調査・マーケティング業界が厳しい現状にある事を反映したものと考える。一方、同社では今後に向けた施策を行っており、変化に対して手を打つ事が出来る経営陣であるとも考える。

3.企業概要
会社名:株式会社インテージ(証券コード:4326)
設立:1960年3月 マーケティングリサーチを行う株式会社社会調査研究所として設立
上場:2001年11月ジャスダック上場。
2008年1月東京証券取引所第二部上場。
2009年3月、東京証券取引所第一部ß指定。
事業概要:各種情報収集網の拡充およびデータハンドリング技術等を基盤とした「市場調査・コンサルティング事業」、システム開発およびシステム運用等の独自のシステムサースを提供する「システムソリューション事業」、医薬品の臨床関連開発業務のトータルソリューションを提供する「医薬品開発事業」の3つの事業を営む。
経営陣:2009年6月提出の有価証券報告書より
経営陣を見る限り、同社の創業に関わったメンバーはすでに残っておらず、創業第一世代はすでに引退しているように見える。また、代表取締役社長の田下氏は、1994年に取締役に就任し、取締役が保有する株式の総数は、発行済株式数の1%程度となっており、経営陣が保有する株式が、議決権に直接及ぼす影響は殆どないと考える。


役名
職名
名前
所有株式数
入社年度もしくは関係が始まった年度
代表取締役社長


田下憲雄
35,000
1972年8月
専務取締役


上住甲子郎
10,000
2003年5月
常務取締役
経営企画部長、人事企画部・関係会社・経営情報システム・パネル調査事業担当
南郷格
13,000
1975年4月
取締役
経営管理部長、グループ内部統制推進部・危機対策委員会・内部統制推進委員会担当
工藤理
6,000
2000年6月
取締役
海外事業・上海事務所担当
一ノ瀬裕幸
7,000
1985年7月
取締役
リサーチフィールド再構築担当
一ノ瀬茂
6,000
1973年4月
取締役
マーケティングソリューション第2ユニットディレクター、マーケティングイノベーションユニット・マーケティングソリューション第1ユニット・カスタムリサーチ事業担当
横田進
13,000
1980年4月
取締役
営業本部長医薬品開発支援事業担当
石塚純晃
4,000
1982年4月
取締役
事業開発本部長、テクノロジー本部担当
宮首賢治
1,000
1980年4月
取締役
ビジネスソリューションユニットディレクター、システム事業・ヘルスケア分野担当
松本享
0
1978年4月
取締役


上原征彦
-
2009年6月
常勤監査役


黒須毅
21,000
1971年4月
常勤監査役


伊藤喜代司
17,000
1970年10月
監査役


高木賢
1,000
2003年6月
監査役


斉藤紀夫
0
2007年6月

大株主:2009年6月提出の有価証券報告書より
特定の企業および企業グループが同社の大株主を占めているという事は無い。 ビービーエイチフォーフイデリテイーロープライスストックファンド、 ノーザントラストカンパニーエイブイエフシーサブアカウントアメリカンクライアントがここ2年ほどで大株主になっているが、それ以外の大株主については、ここ数年大きな変化は無い。


名前
株数(千株)
議決権の割合
エーザイ株式会社
900
8.65%
ビービーエイチフォーフイデリテイーロープライスストックファンド
832
8.00%
インテージ従業員持株会
618
5.94%
ノーザントラストカンパニーエイブイエフシーサブアカウントアメリカンクライアント
519
4.99%
日本トラスティ・サービス信託銀行株式会社
476
4.58%
豊栄実業株式会社
455
4.37%
株式会社埼玉りそな銀行
450
4.33%
株式会社みずほ銀行
350
3.36%
日本生命保険相互会社
350
3.36%
第一生命保険相互会社
350
3.36%
東京海上日動火災保険株式会社
350
3.36%
合計
5,651
54.32%

従業員数(連結): 1,779人 (2009年3月31日時点)
従業員の推移を見ると、連結従業員については過去5年を通して一貫して増えている。事業ごとの内訳をみると、市場調査・コンサルティング部門および医薬品開発支援事業において従業員数が伸びている一方、システムソリューション事業は従業員数が減少している。従業員数からみると、市場調査・コンサルティング事業および医薬品開発支援事業が同社の成長を担ってきた事が分かる。連結の従業員数は伸びているものの、単体でみると従業員数はそれほど増えていない。これは同社が企業グループを拡大するという形で事業を成長させてきた結果であると考える。



2005/3
2006/3
2007/3
2008/3
2009/3
従業員数(連結)
1,411
1,500
1,558
1,660
1,779
従業員(単体)
844
842
832
868
855
平均年齢(単体)
38.1
38.3
38.2
38.5
38.0
平均勤続年数(単体)
13.3
13.2
13.3
13.1
12.8
平均年間給与(単体,)
7,490,000
7,637,000
7,699,000
7,699,000
7,845,000




2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
CAGR
市場調査・コンサルティング
632
719
785
806
979
11.56%
システムソリューション
394
356
324
344
272
-8.85%
医薬品開発支援
217
245
267
308
340
11.88%
全社(共通)
168
180
182
208
188
2.85%
合計
1,411
1,500
1,558
1,666
1,779
5.96%

・企業理念
経営方針としては「私たちの使命はお客さまの事業を総合的に支援し、事業の成功に貢献することによって、その先にいる生活者を豊かにし、社会の公正な発展に寄与することです」という文言が同社のWebサイトに明記されている。

4.ビジネスモデル
インテージでは、以下の表のように市場調査・コンサルティング事業、システムソリューション事業及び医薬品開発支援事業を行っている。
事業
内容
市場調査・コンサルティング事業
調査対象(人、世帯、店など)を対象にした長期間固定した継続的な調査を行う。また、顧客のマーケティング課題にも基づき、テーマごとに最適な調査を設計、実査、集計、分析を受託する「カスタムリサーチ」も行う。
システムソリューション事業
ソフトウエアの開発、販売から、システムの運用、維持管理、データセンタの運営を行う。また、システムソリューションに付随した各種コンサルティング業務も行う。
医薬品開発支援事業
CRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)業務とSMO(Site Management Organization:治験施設支援期間)業務を行う。
CRO業務では、製薬企業からの委託により、モニタリング業務やデータマネージメント、解析業務を実施する。SMO業務ではCRC業務(治験コーディネーターの派遣)および治験事務局代行業務を行う。
有価証券報告書において、同社の業績の特徴として下期に業績が偏重する傾向があると自ら言及している。これは、市場調査・コンサルティング事業におけるリサーチ業務の報告が、年度末に集中する事と、官公庁・自治体から受注する業務における完了・報告時期が年度末に集中する事、システムソリューション事業にける納期が年度末に集中する事が高い等が要因としてあげられている。具体的には、2009年3月期における売上は53.3%が下期に、2008年3月期においては58.2%が下期からの売上となっている。

・競合企業の分析
競合企業としては、市場調査業務を行う企業全般となる。マーケティング・リサーチ専門会社が集まった団体としては「社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会」があり、正会員としてインテージ社を含む147社が登録されており、これらの企業が同社の競合企業となりうる。また、同社によると国内No1、世界10位(全米マーケティング協会調べ)のポジションを獲得しているとある。

5.過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。売上高、営業利益、純利益ともに成長している事が分かる。営業利益率は5年を通して改善傾向にあり、この理由としては原価率が向上している事が理由となる。また販管費については、横ばいとなっており大きな変化は無い。上記で述べた通り従業員数については過去5年で5%程度の成長をしているものの、原価率、販管費率をみる限り、従業員数の増加に関わる経費については売上の増加とともに吸収出来ているように見える。

流動比率は過去5年を通じて140%〜180%台で推移しており、また自己資本比率は過去5年を通じて値が上昇している。これらの事から、直近の財務状況は特に大きな問題は無いと言える。また同社によると、事業活動に必要な資金調達を安定的、機動的に行う事を目的として、シンジケート方式によるコミットメントライン契約(設定金額40億円)を締結している。2009年3月期における借入未実行残高は25億円となっている。

同社のキャッシュフローを見ると、2005年をのぞき、営業キャッシュフローが投資キャッシュフローを上回っており、フリーキャッシュフローを稼いでいる状態が続いている。また、財務キャッシュフローと比較しても、フリーキャッシュフローを大きく上回っている事は無い。この事から、キャッシュフローの側面においても現時点の同社には大きな問題は無いと言える。また、投資キャッシュフローの内訳を見てみると、設備投資として有形固定資産、無形固定資産に年平均10億円程度支出しており、これは連結売上の3%〜5%程度の値となる。

また、資産の内訳については、過去5年を通して、流動資産が60%程度、有形+無形固定資産が30%程度、投資+その他固定資産が10%程度となっておりこの比率については大きな変化は無い。


2005/08
2006/08
2007/08
2008/08
2009/08
CAGR
売上高(百万円)
26,619
28,778
30,800
33,105
34,346
6.58%
営業利益(百万円)
1,767
2,402
2,991
3,285
3,176
15.79%
純利益(百万円)
997
1,362
1,627
1,766
1,729
14.76%














原価率
72.4%
71.9%
71.3%
68.7%
69.5%
-
販管費率
19.3%
19.0%
19.2%
21.3%
20.8%
-
営業利益率
8.2%
9.1%
9.5%
10.0%
9.7%
-














流動比率
140%
170%
153%
141%
180%
-
自己資本比率
35.9%
41.5%
43.3%
47.9%
54.2%
-
1株辺り純資産()
601.81
719.52
851.35
994.41
1,120.90
16.82%
1株辺り純利益()
94.13
129.34
157.58
170.10
168.69
15.70%














営業CF(百万円)
1,230
1,627
2,042
2,248
3,191
26.91%
投資CF(百万円)
-1,652
-1,061
-1,902
-1,033
-1,554
-
 FCF(百万円)
-422
566
140
1,215
1,637
-
財務CF(百万円)
668
-597
9
-546
-1,708
-














資産合計
10,643
10,311
11,742
12,651
12,110
3.28%
負債合計
7,607
6,072
7,659
8,965
6,743
-2.97%
資本合計
6,238
7,454
8,788
10,190
11,486
16.49%
(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。)

事業セグメント別の売上、営業利益率について
事業別セグメント別の売上、営業利益については以下の通りとなる。全体の傾向としては、市場調査・コンサルティング事業が売上の60%〜65%程度、営業利益の80%強を占めている。システムソリューション事業が占める売上は、ここ5年で30%弱から20%弱へ減少しており、営業利益に対する貢献は殆どない。その一方で、医薬品開発支援事業における売上が伸びており、直近の値において、全体における売上の15%、利益の10%程度を占めている。この事から、現状においては医薬品開発支援事業が占める売上・利益が伸びてきているものの、市場調査・コンサルティング事業へ依存している形となっている。システムソリューション事業については、ここ数年、同事業における従業員数も減少傾向にある事から、同社における同事業の重要度がさがりつつあるように見受けられる。
営業利益率をみてみると、市場調査・コンサルティング事業については、やや上昇傾向があるものの、医薬品開発支援事業については2006年3月期をピークに減少傾向にある。ボリューム的には市場調査・コンサルティング事業の方が大きいため、全体の営業利益率にたいする影響は小さいが、医薬品開発支援事業における営業利益率の回復は、同社における課題の一つと考える。
事業別セグメント売上
2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
CAGR
市場調査・コンサルティング
15,983
17,521
19,824
21,795
23,105
9.65%
システムソリューション
7,541
7,459
6,929
6,702
5,906
-5.93%
医薬品開発支援
3,139
3,797
4,046
4,606
5,333
14.17%
合計(百万円)
26,663
28,777
30,799
33,103
34,344
6.53%


事業別セグメント営業利益
2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
CAGR
市場調査・コンサルティング
1,716
2,007
2,398
2,914
2,922
14.23%
システムソリューション
212
92
94
-39
13
-50.24%
医薬品開発支援
257
514
437
439
384
10.56%
合計(百万円)
2,185
2,613
2,929
3,314
3,319
11.02%


事業別セグメント営業利益率
2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
市場調査・コンサルティング
10.74%
11.45%
12.10%
13.37%
12.65%
システムソリューション
2.81%
1.23%
1.36%
-0.58%
0.22%
医薬品開発支援
8.19%
13.54%
10.80%
9.53%
7.20%
合計
8.19%
9.08%
9.51%
10.01%
9.66%

所在地セグメント別の売上、営業利益率について
同社では、全セグメントの売上高及び資産における国内の割合が90%を超えている事から、所在地別セグメント情報は公開していない。

資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。資産ベース、負債ベースともに大きな変化は無い。また、事業別の仮想的資本効率を見ると、医薬品開発支援事業におけるROICが、営業利益率と同様に2006年より下落傾向になる。2009年における同事業の資本的支出(約119百万円)は2008年(約20百万円)に比べて10倍近い支出となっており、過去5年と比較しても非常に大きな支出となる。これが2009年において同事業の資本効率が下落した主な理由である。有価証券報告書によると、この支出は同社の子会社である(株)アプレックスがユーザのニーズに合わせたEDC(Electrical Data Capturing)の次世代システム開発を行った研究開発費が大部分を占めている模様である。資本効率の面においても、医薬品開発支援事業における資本効率の改善が同社の課題の一つであると考える。





2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
ROIC(負債ベース)
12.8%
14.2%
13.6%
14.0%
14.0%
ROIC(資産ベース)
10.7%
12.0%
12.0%
13.2%
13.1%



事業別セグメント仮想資本効率(税率を40%と仮定)
2005/03
2006/03
2007/03
2008/03
2009/03
市場調査・コンサルティング
16.15%
16.10%
13.94%
15.87%
16.54%
システムソリューション
2.66%
1.01%
1.10%
-0.46%
0.15%
医薬品開発支援
9.66%
19.36%
14.71%
12.91%
9.91%

ROICツリー分析
インテージの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、インテージと同じマーケット調査業界に属する上場企業としてマクロミル、クロスマーケティングを選択した。クロスマーケティングのROICが他2社と比較して非常に高くなっているが、これは、同社はBSにおける現金の割合が80%程度と他社と比べて非常に高い値となっている事が理由となる。マクロミル、クロスマーケティングの原価率および販管費率がインテージ社の構成と異なるが、これは前2社がインターネットを主に利用した調査を業務にている一方、インテージではパネル調査が主力商品となっている事が理由と考える。
投下資本側についてみると、インテージはマクロミルよりも効率的に投下資本を回転させている事がわかる。インテージの投下資本額がおよそ150億円に対し、マクロミルの投下資本はおよそ40億円である。投下資本が大きいほど、回転率をあげる事が難しくなると考えられる事と、インテージ社における投下資本回転率の過去推移からみて、インテージにおいて投下資本の増加と共に投下資本回転率が大幅に下落しているという事も無い。


6.資本政策の分析
・配当

2006年3月期〜2008年3月期までの有価証券報告書においては、目安としての連結配当性向として20%とする旨の記述があるが、2009年3月期より25%と上昇してる。連結配当性向を2009年より変えた理由については特に言及されていない。
一方、過去の株価について見てみると、2007年3月期につけた3,700円をピークに下落傾向にある。このことから、配当性向の変化はある種の株価対策の可能性も考える事が出来る。

・自社株買い
2008年3月期に取締役会決議による自己株式150,000株(取得金額:2億4千万円)を取得している。それ以外に特に大きく目立つような自社株買いは行っていない。

・資金調達
負債額そのものは2007年3月期をピークに減少傾向にあるが、同社では事業活動に必要な資金を機動的に調達する為のコミットメント契約(設定金額40億円)を結んでおり、2009年3月期における借入未実行残高は25億円となっている。一方で、過去4期のキャッシュフローをみると、投資キャッシュフローは営業キャッシュフロー以下となっている。この事から、同社においては通常の設備投資は自己資金で賄いつつ、なんらかの資金需要が発生した場合は負債を用いるべくその為のオプションを用意しておく、という戦略を取っているように見える。

7.将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:自分勝手割引率として10%を用いる。
有利子負債コスト:社債及び、各種借入金の平均利率を計算した結果、有利子負債コストは1.34%となる。
WACC:株式コストと有利子負債コストの加重平均を計算した結果、WACCは8.77%となった。

・売上高
同社では2009年の売上高予想を発表しているものの、2010年3月期第二四半期決算の内容が厳しい事もあり、同社発表の数字を元にしつつ以下のシナリオに従うとした。

市場調査・コンサルティング事業:経済産業省が発表している「特定サービス産業動態統計調査」によると、同社が属している情報サービス業(各種調査)における各月の売上は、2008年9月以降、2009年1月、5月を除き前年比でマイナスとなっている。この事から、市場としては非常に厳しい状況にある事が言える。この事から、2009年の売上は-2%程度の成長と仮定し、売上高の回復は2012年3月期からと仮定した。中期的にはインターネットを利用した調査市場および海外市場(中国市場)がさらなる売上成長への鍵になると考えるが、現時点においてはこれらの大きな成長は織り込まない。

システムソリューション事業:システムソリューション事業については、ここ数年、同事業に配属されている従業員、売上高共に減少している。これは事業性に応じた業務内容の精査を行う事により、計画的に事業を縮小させている為となる。そこで、今後としても同事業は約3%程度の減収を続けると想定した。

医薬品開発支援事業:CRO業界の団体である日本CRO協会が発表している、会員の総売上の推移をみると、同業界の売上は2006年から2009年(予測)において年平均9.8%で成長している事が分かる。また、そのなかでインテージ社における医薬品開発支援事業が占める割合はおよそ4.5%程度となっている。CRO業界はまだ成長過程にある事と、そのなかでインテージ社のシェアは大きく変化しないと仮定し、2015年まで9%成長、その後は緩やかに成長率が減少してくと仮定した。

・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の過去の推移は2005年の72.4%から2009年の69.5%まで減少傾向になる。今後も売上原価低減の努力を継続するものと考えるが、やや保守的に現状と同じ原価率が続くと仮定する。
販管費における変動費の割合は、有価証券報告書における主な販売管理費の費目から類推して、全体の30%が変動費になると仮定した。また、固定費成長率については2%程度の値と仮定する。

・減価償却費
過去の減価償却は、売上高比の2%程度なので、今後も同様程度の減価償却を行うと仮定する。

・設備投資
IRによると、2009年、2010年にかけて消費者パネルに関する設備投資を計画しているとの事。そのため、2010年の設備投資は2009年と同程度になると仮定。その後は、過去の推移を考慮し売上高の3%程度と仮定した。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
非事業用資産は保持していない。

・実効税率
過去5期における実効税率の平均が43.06%だった事もあり、この値を用いる。

8.バリュエーション 
2009年11月16日の株価1,565円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:2,259円 乖離44%

9.IR関連
同社のIRサイトには、決算短信、有価証券報告書が2002年度分からダウンロード出来るようになっており、基本的な情報はここから取得出来るようになっている。また、同社のIR部門に対して、設備投資、従業員数、今後の見通しなどについて伺った所、一通りの回答を頂く事が出来た。
但し、同社における「資本コスト」についてどの程度を推計しているか聞いた所、資本コストについてはっきりとした認識を持っているようには感じられなかった。また同社の個人株主向けサイトにおける「配当と株主様のメリット」というページでは、配当性向について「数値が高い場合株主への利益還元の傾向が強い」と記述してあるが、株主への還元はキャピタルゲイン(株価上昇益)とインカムゲイン(配当利益)があり、上記の記述はこれはインカムゲインのみを株主還元とみなしかねず、ミスリーディングの可能性があると考える。配当に関する合理的な意思決定は、同社における事業のステージ(成長期、成熟期etc)等により異なり、配当性向が高い事がすぐに株主還元となっているとは限らない(Ex,成長期における配当)。以上の事から、情報の入手に関しては特に問題があるとは感じられないが、同社IRにおけるファイナンスの理解については若干疑問が残った。

10.まとめ
株価 1,565円(2009年11月16日終値)に対し、理論株価は2,258円となり乖離率は44%となる。同社では、ここ数年売上高、営業利益、従業員共に拡大してきているが、2010年3月期については、上半期の実績からすると厳しい状況にある。将来動向の所でも述べたように、「特定サービス産業動態統計調査」の結果からリーマンショック以降、市場全体の売上が下降気味であり、同社が属する「社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会」が発表している「経営実務実態調査(2009年発表)」においても、同協会に属する多くの企業が2009年の見込みが厳しいと予想している事が分かる。このような市場環境の中、どのように次の成長を描くかが同社の課題となる。
同社では、インターネット調査、消費者パネルのWeb化、海外事業の拡大を今後の課題として挙げている。「経営実務実態調査(2009年発表)」による調査手法別売上高を見ると、インターネットを利用した調査手法による売上が他の手法に比べて大きく伸びている。そこで、同社では消費者パネルのWeb化について設備投資を行う事で、商品の品質向上および売上増加を目指す方針であるとの事である。また、海外市場については、海外売上高比10%を目標に中国市場を中心に市場の拡大を目指している様である。以上の事から、同社に蹴る足下の業績は厳しい状態にあるものの、経営陣としては将来を見据えた手を打っていると考える。
株価と理論株価の間に44%程度の乖離があり、理論株価が株価と一致するように株主コストをゴールシークすると、株主コストは約14%となった。将来業績予測をどの程度見積もるかにもよるが、市場全体としては同社の将来業績をやや厳しく見積もっていると見る事が出来る。これは、調査・マーケティング業界が、不況を原因とする顧客企業の広告費削減、リサーチ予算の縮小およびインターネット調査等による単価の下落等から、マーケットが厳しい状態にある事をある程度反映しているものと考える。市場の状況は厳しいものの、同社では上記に述べたような施策を打っており、これらをどのように判断するかが、同社の企業価値評価における大きなポイントになると考える。