2009/10/17

クラウドコンピューティングに関するメモ

 クラウドコンピューティングについて調べようとしていた所、The Economistにクラウドコンピューティングについての記事があった。企業価値評価とは直接関係のないエントリではあるものの、クラウドコンピューティングは今後のITにおける大きなトレンドであるとの考えから、備忘録代わりにここにメモとする。

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Battle of the clouds

クラウドにおける3つの注意点

・テクニカルロックイン
クラウドサービス間においては、サービスの互換性がない。

・個人情報
大抵のサービスは無料で提供される。ユーザは一定程度の個人情報と引き替えに、
サービスを無料で使用できる。しかしながら、個人情報の管理(サービス提供会社が
どの情報を広告に利用できるか?)については、ユーザがコントロール出来るべきである。

・データのロスト
クラウド側にすべてのデータがあるため、サービス提供会社のサーバがクラッシュすると、今までにない規模の大量の顧客のデータが一瞬にして失われる。

透明性、信頼性についてサービス提供会社側が注意しないと、何らかの規制が入る可能性があろう。すでに、AppleとGoogle間において取締役が重複している事に関して、独占禁止委員会が警告を発している。

電力については、自社設備で発電して給電するという事はすでに行われずに、発電所からの電気を買っている。クラウドコンピューティングについても、自前でコンピュータを保持せずに、サービス提供会社からコンピューティングパワーを買うという方向になるだろう。

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Clash of the clouds

クラウドにおけるMS,Google,Appleの分類

Google
1998年に誕生したときから、クラウドをベースにした会社である。
米国におけるサーチベースの広告では75%のシェアを持つ。
収入構造:広告収入が大部分であるが、法人に対する有償サービス提供も始めた。
知的財産:広告に依存している事から、知的財産に対してはオープンな政策。Chrome OSをオープンソースにする事で、MS等に対する牽制を行いつつ、Googleの サービスに対する需要を増やす→広告収入増を見込む。但し、内部データ構造、サーチエンジンのアルゴリズム等の基幹となる技術については公開せず。開発体制は分権化が進んでいる。

MS
クラウドに関しても結構投資している。
オンラインサービスで数十億ドル規模の損失を出した一方、独自のネットワーク、データセンタを持っている。XBoxはオンライン機能が豊富にあり、Bingもシェアを増やしつつあり、MS-Officeについても、オンラインサービス化を準備している。
収入構造:パッケージソフト販売がメインであるが、広告収入も増やしつつある。
知的財産:他ソフトウエア企業が、Windows上でソフトを走らせるために必要な情報は公開。しかし、Windowsの基本的な情報は公開せず。開発体制は中央集権化。

Apple
値段が高いが、革新的なソフトとハードの組み合わせを販売する。アップルのサービス(iTune, Apple Store, MobileMe)は、あくまでもハードを売るための手段の一つ。最近は、クラウドにも興味を持ち、10億ドルを拠出してデータセンタを買った。
収入構造:ハードウエア販売がメイン。サービスにおける収入についての内訳は公開していないものの、online music等のセールも過小評価出来ず。アップルのサービスには広告がない一方、消費者がコストを払う形式となる。また、法人はサービスの対象となっていない。
知的財産:OSの情報は他社には一切公開しない。Appleに認証されていないiPhoneアプリはApple Storeに公開されない。オープンという言葉はアップルの辞書にない。

・ソフトウエアに対してオープンでいる事が、勝負を決めるわけではない。多くのGoogleのサービスは失敗に終わっている。MSは、ソフトウエアを等してPCをコントロール出来るので、PCとクラウドに関してシームレスなサービスを提供可能である。また、多くの顧客は、不便がある事を理解した上で、ソフトとハードが非常に高レベルで統合されたアップルの製品にお金を払っている。

・3社ともに多くのリソース(資金、シェア、過去のソフトウエア資産)がある。

・データセンタ、サービス提供に関しては、Googleが一歩抜きんでて、MSが追うという展開だが、周辺機器関連ではAppleに大きな強みがある。ただ、周辺機器関連では、Google Andoroidが大きな可能性を秘めている。

・米国等におけるblog界隈では、Appleが出版業界等に向けて、何か"めちゃくちゃすごい(insanely great)"新規デバイスについて話を始めたという噂がある。

・その他の対抗馬としてはAmazon, Facebookがある。Amazonはすでにクラウドサービスをその他のオンラインサービス会社に提供している。Facebookは1億人以上のユーザがおり、間違いなくもっとも成功したクラウドサービスである。

・アメリカ以外の国も、政府主体のクラウドを構築する計画などもあるが、今後のクラウドサービスを優勢に進めるのはやっぱり米国の企業であろう。

2009/10/09

株式会社トーセ(4728)

1. はじめに
本レポートは株式会社トーセ (証券コード:4728)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年10月上旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2. 要旨
株価 619円(2009年10月7日終値)に対し、理論株価は 549円となり乖離率は-11%となる。ここ近年、売上、従業員共に拡大してきたが、来期は売上の減少が予測されており、一つの曲がり角に来ていると言える。また、この先行きが非常に不透明な業界である事もあり、割引率をやや高めに設定した。一方、過去業績等を調べて見る限り、同社の経営陣は堅実な経営を心がけているように見える。

3. 企業概要
会社名:株式会社トーセ(証券コード:4728)
設立:1979年11月
上場:1999年8月大阪証券取引所第二部・京都証券取引所上場。2000年9月東京証券取引所第二部上場。2001年8月、東京証券取引所第一部、大阪証券取引所第二部に指定。
事業概要:ゲームソフト、モバイル・インターネットに関する企画、開発、運営などの業務受託を中心に、顧客サポートを行う。
経営陣:2008年11月提出の有価証券報告書より
CEOの斎藤茂氏と、執行役員知的財産管理室長の齋藤真也氏は、取締役会長の齋藤豊氏の長男と次男である。三氏は同社における主要な株主でもある事から、経営に対して大きな影響力を持っていると考える。また、経営陣の年齢をみると、最高齢は斎藤豊氏の81才となり、齋藤真也の43才が最も若く、取締役、監査役を含めた平均年齢は、60.3才となる。齋藤茂氏、早川郁久氏、齋藤真也氏、渡辺康人氏が年齢的に50代前半から40代となる事から、実質的には彼らが同社の経営を行っていると考える。

大株主:2008年11月提出の有価証券報告書より
創業家一族と思われる斉藤家(齋藤茂氏、齋藤真也氏、齋藤豊氏、齋藤一枝氏)が持つ議決権の割合が35.13%と全議決権の1/3を超えており、特別決議を否決出来る状況となっている。

従業員数(連結): 743人 (2008年8月31日時点)
このレポートを書いている2009年10月上旬においては、まだ2009年8月期の有価証券報告書が提出されていない為、従業員については2004年8月期から2008年8月期までの5年間について調べた。
これをみると、ゲームソフト開発部門、モバイル・インターネット部門共に年々従業員数が増えており、5年間のCAGRは12%~13%台となっている。また、その結果として連結及び単体の従業員数も同様に伸びている事が分かる。一方、単体における平均年齢及び平均勤続年数については殆ど変化がみられないが、これは毎年ほぼ10%以上の割合で従業員数が増えている事が大きな理由であると考える。従業員数の推移から見ると、同社は過去5年でほぼ倍近くに成長している企業となる。

・経営方針
経営方針としては「縁の下の力持ち」を合い言葉に、受託開発に徹することで多くのクライアントから信頼を得ていく方針である。自社ブランドにてゲームを発売しない理由としては、自社ブランドソフトを発売することで、クライアントが競争相手になり現在のような取引が出来なくなる恐れがある為としている。

4. ビジネスモデル
トーセでは、以下の表のようにゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業及びその他の事業を行っている。

同社における売上の仕組みとしては以下の3つから構成されている。売上としてのボリュームの大きさは、開発売上>運営売上>ロイヤリティ売上となっている模様である。また、売上の確度としては、開発売上、運営売上はある程度の予測が立てられるものの、ロイヤリティ売上は予測が非常に難しいとの事である。一方ロイヤリティ売上は、すでに開発が完了したソフトに対する売上となる為、売上をたてる為の原価等は特に必要のない売上となる。

・バリュードライバー
自社の名前を前面に押し出さず、特定のゲームパブリッシャーに縛られずに受注する事が可能となる。また、ゲームソフト開発工程における、企画、シナリオ作成、デザイン、プログラミング、音楽・効果音作成、デバッグ(動作チェック)の全ての行程を受注できる為、ゲームソフトの規模が拡大し、開発期間の長期化や開発コストが増大する中で、その全ての工程を受託できる事が出来る同社は、他社に対して優位なポジションにあると考える。

・競合企業の分析
競合企業としては、ゲームソフト、モバイルソフトの受託開発会社全般になると考える。同社のウェブページ上にあるQ&Aによると、ゲームソフト開発工程の全てにおいて対応可能である会社は、国内でも数少ないとある。経営方針で述べたように、自社ブランドを全面に出さない為、所謂パブリッシャーとは競合関係にならない。

5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。売上高は年率10%弱で成長しているが、営業利益についてはほぼ横ばいもしくはやや減少傾向となっている。販管費率は減少傾向にあるものの、原価率が一貫して上昇傾向にあるため、これが営業利益率を押し下げている原因となる。「従業員数」の所で述べたように、連結、単体共に従業員数が年率10%以上で上昇している事から、この人件費が原価率を悪化させている一つの原因となる。またゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業の要員が増えているものの、人員の増加に対して内部体制が追いつかず、業務効率等の低下が起きているとも考えられる。
流動比率、自己資本比率共に高い値となっており、直近においては財務状況に大きな不安は無いと言える。負債の中身としては、未払い法人税、前受金、役員退職慰労引当金等が主な項目となり、有利子負債を持っておらず無借金経営となる。尚、過去5期を通して同社は無借金経営を行っている。
同社のキャッシュフローを見ると、営業キャッシュフローよりも投資キャッシュフローが大きい年もしくは同等となっている年が多い。投資キャッシュフローの詳細をみてみると、多くは「定期預金の預け入れ」「投資有価証券の支出」が占めている事が分かる。「有形固定資産の取得」も毎年行われているが、上記二つの支出に比べるとトータルに占める割合は少なくなる。この事から、投資キャッシュフロー(マイナス)が、営業キャッシュフロー(プラス)よりも大きい年が多いものの、将来への成長・拡大へ向けた投資を行っている訳では無いと判断する。また、2009年8月期は、投資キャッシュフローがプラスになっているが、これは「定期預金の払い戻し」が約12億円あり、このインパクトが大きい為となる。
資産、負債、資本については5年間で大きな変化は見られない。また、資産の内訳についても、流動資産が55%~60%前後、有形固定資産が13~20%程度、投資有価証券が18~23%程度となっており、この割合についても大きな変化は無い。
(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。)

事業セグメント別の売上、営業利益率について
事業別セグメント別の売上、営業利益については以下の通りとなる。全体の傾向としては、ゲームソフト開発事業が売上の50~60%、モバイル・インターネット開発事業が30%前後、残りをその他の事業が占める。また、ゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業共に売上の成長度合いとしては5%程度と同じような伸び率である一方、その他の事業は2008年、2009年と大きく伸ばしている。
営業利益を見てみると、各事業が占める営業利益の割合についても売上と同じような割合になる。これは、大きな割合を占めるゲームソフト開発事業とモバイル・インターネット開発事業の営業利益がほぼ同じ為となる。また、営業利益、営業利益率共に2007年をピークに下落傾向となっている。両事業における営業利益率が低下している原因については明示されていないが、ここ近年、従業員数を大きく増やしている事から、固定費となる人件費が原価の上昇圧力になっている事が想像できる。それにより原価における固定費部分が年々増えた為、売上が横ばいもしくは下落した際、従来よりも営業利益の下落圧力が高まっている可能性が考えられる。近年、従業員数を増やしてきたことと、来期の見通しにおいても売上高の減少を見込んでいる事から、営業利益率の改善はしばらくの間、難しいと考える。
(注意:事業別セグメントにおける営業利益率の計算において、営業利益における消去分については考慮していない。各事業における「儲け力」を部門別、年度別に比較する事が主な理由である為となる。)

所在地セグメント別の売上、営業利益率について
同社では、全セグメントの売上高及び資産における国内の割合が90%を超えている事から、所在地別セグメント情報は公開していない。

資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。営業利益率同様に2007年をピークに減少している。また、ここ数年、負債ベース、資産ベース共に投下資本の総額については変化が無い。その為、営業利益の回復と共に、資本効率も上昇していくものと考える。

ROICツリー分析
トーセの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、トーセと同じゲーム業界に属する、任天堂、スクエア・エニックス、日本ファルコムを選択した。尚、投下資本回転率については、任天堂、スクエア・エニックス、日本ファルコム共に非常にキャッシュリッチな会社である為、投下資本の計算に現金の一部(現金及び現金同等物-運転資金)を参入して計算している。
ゲーム業界に属するとはいえ、各社によって業態が異なる為に純粋なROICツリーの比較は出来ないが、ROICツリーの内容が各社によって大きく異なっている事が特徴と言える。また、そのなかで目立つ点としては、任天堂における営業利益率の高さ及びそこから導かれるROICの高さとなる。トーセについては、売上原価率が他社よりも高い点が目立つ。トーセの原価率は過去5年一貫して上昇しているが、2005年8月期においても原価率は65.38%と他社の水準よりも高く、事業構造として売上原価率が高い仕組みになっていると言える。

6. 資本政策の分析
・配当
近年は中間配当、期末配当を合わせて一株25円の配当を行っている。配当性向に関する目標設定に関する記述は見られない事から、配当金額を固定していく方針の様に見える。その事から、2009年9月期については、配当総額(約1億8千万円)が純利益(約9千9百万円)を超える見込みであり、配当性向が100%を超える。

・自社株買い
2009年8月31日現在において、319,225株(発行済み株式の約4 %)の自己株式を所有しており、約200,000株が、2009年3月期に購入されている。過去5年間は、未単元株の買い取り等を除いて自社株買いを積極的に行った形跡はない。

・資金調達
過去の経緯を見る限り、資金調達については有利子負債を用いずに自己資本を用いる方針であると考える。また、ROICツリー比較時に用いた各社を調べても、有利子負債を持たないか、有利子負債は存在するが額としては現金保有高以下となっており、実質的に無借金経営をしている会社となっている。

7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:ゲーム業界という当たり外れのリスクが大きい業界であるものの、同社は自らの名前を全面に押し出さず、数多くのメーカーと組むことでビジネスリスクの分散を行っているとも言える。そこで、割引率としては、やや高めの15%とする。
有利子負債コスト:有利子負債は無い。
WACC:
有利子負債が無い事から、資本コスト=WACCとなる。

・売上高
同社が予想する2010年8月期の売上高は約53.8億円(前期比-11.7%)となっているのでこの値を用いる。今後の見通しについては、ゲーム業界及び、その他の事業で行っているパチンコ業界共に、非常に予測が難しい業界である。そこで、大まかな予想として、2011年度は2010年と同程度の売上とし、2012年から徐々に売上が回復していくと予想する。但し、売上の成長率としては2~5%程度と見込む。

・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の過去の推移は2005年8月期の65%程度から2009年3月期の77.1%まで大きく上昇している。これは主に人員の増加が理由となって売上原価の一部が固定費化していると考える。一方で、これまで採用してきた従業員が徐々に有効に活用出来てくる可能性も考え、原価率としては同程度の77%とする。また、今後の見通しとしては、売上の増加及び従業員における作業の効率化を通して原価率も低下していくと予想する。
販管費における変動費の割合は、有価証券報告書における主な販売管理費の費目から類推して、全体の90%が変動費になると仮定した。また、固定費成長率については2%程度の値と仮定する。

・減価償却費
過去の減価償却は、売上高比の1%~2%程度なので、今後も同様程度の減価償却を行うと仮定する。

・設備投資
従来の設備投資額は5,000万~1億円程度だったのだが、2009年8月期に有形固定資産の取得として4億円程度の支出があった。同社によるとこれは作業効率向上と経費削減を目的として、京都市に新たな事業拠点を取得する為の費用であるとのこと。今後の設備投資の見通しとしては従来と同程度との事。そこで設備投資額としては1億弱の規模と仮定する。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
外国債を約9,500万円保持しているので、これを非事業用資産として参入する。

・実効税率
過去5期における実効税率の平均が52.4%だった事もあり、この値を用いる。

8. バリュエーション 
2009年10月7日の株価619円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:549円 乖離-11%


9. IR関連

同社のIRサイトには、決算短信、有価証券報告書が過去9年分を遡ってダウンロード出来るようになっており、基本的な情報はここから取得出来るようになっている。
また、同社のIR部門に対して、設備投資、従業員数、今後の見通しなどについて伺った所、以下のような回答を頂いた。設備投資に付いては、バリュエーションの所で述べたとおり、今期は事業拠点取得の為の支出があるものの、今後については以前と同程度を見込んでいる模様。従業員の採用に関しては、ここ近年大きく伸ばしているものの、売上状況が厳しい事もありしばらくは、新規採用については抑え気味とする予定である。また、原価率が悪化している事については、新規採用したメンバーの作業効率が上がっていない事があげられるが、これらのメンバーについても徐々に作業効率の上昇が見込まれている事もあり、それに合わせて原価率も向上していく見込みの模様である。今後の見通しについては、ゲーム業界、パチンコ業界共に、同社においてもこの先の見通しは非常に不透明であるとの事だった。
総じて、担当者の方からはこちらの質問に対してレスポンス良く明確な返答を頂く事が出来たと感じた。

10. まとめ
株価 619円(2009年10月7日終値)に対し、理論株価は 549円となり乖離率は-11%となる。同社は近年売上と共に人員も大きく拡大してきたが、金融危機による経済活動全般の低迷及び個人消費低迷をきっかけにした、ゲーム機器、ゲームソフトの販売低迷によるゲームタイトル開発のストップ、開発規模の縮小、引き合いから受注確定に致までの期間の長期化等の外部環境により来期以降は売上の減少が見込まれる。これは同社の業績が現在、一つの曲がり角に来ていると言える。
一方、同社の強みとしては、「縁の下の力持ち」に徹することにより、数多くのゲーム機器メーカー、ゲームソフトメーカーと組むことでビジネスリスクを分散させている事といえる。一方で、受託開発に特化する事は、売上が常に外部環境に大きく依存しているとも言える。その為、同社の将来売上についても景気環境等に大きく依存すると考える。
その様な環境の中、同社としては新規採用を抑制する事や、作業効率向上・経費削減を意図した新規業務拠点の設置を予定しているなど、現状に対応する為の施策もあり、また、近年採用してきた従業員の業務習熟度、作業効率が上昇していく事も見込まれる。以上の事から、同社の先行きは非常に不透明であり、外部環境に依存しているというビジネスの構造は大きく変化しないと考えるものの、同社の過去業績等を調べる限りは変化に対応できる経営力を有していると考える。
現在は先行きが不透明である為、割引率を高めに設定したバリュエーションとなっているが、ある程度先が見えてきた段階で、改めてバリュエーションを見直す事が必要となるかもしれないとも考える。

2009/10/02

株式会社王将フードサービス (9936)

1. はじめに
本レポートは株式会社王将フードサービス (証券コード:9936)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年9月下旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2. 要旨
株価 2,815円(2009年10月1日終値)に対し、理論株価は 2,904円となり乖離率は3%となる。2008年後半からの「王将ブーム」により、売上・株価共に大きく上昇している事から、株価はフェアバリュー近辺となる。一方、有報等を調べた限りまた、IRとのやりとりから、同社の経営については、ブームに惑わされずに堅実な経営をしていると考える。

3. 企業概要
会社名:株式会社王将フードサービス(証券コード:9936)
設立:1974年7月
上場:1995年1月大阪証券取引所二部・京都証券取引所上場、2006年3月大阪証券取引所一部上場
事業概要:中華料理を主体とした直販レストランチェーン及び、フランチャイズ加盟店への中華食材の販売及び、和食専門店の運営。
経営陣:2009年6月提出の有価証券報告書より
略歴を見る限り、人事部長の是枝秀紀氏を除き、他の取締役は入社してから20年以上経過している。3名の監査役の内、2名が社外監査役ではあるが、取締役については全員が社内取締役となっている。また、経営陣が保有する株式の総数は、発行済み株式における3%程度となるため、経営陣が株式の議決権に直接的に及ぼす影響は殆ど無い。

大株主:2009年6月提出の有価証券報告書より
業務提携をしているアサヒビール株式会社が現時点における筆頭株主となっている。また、創業家一族(加藤家)も大株主として名前を連ねている。その事もあり、上位10大株主が持つ議決権の割合は全体の50%を超える事となる。

従業員数(連結): 1,540人 (2009年3月31日時点)
2006年から2008年にかけての従業員数は、2%程度の伸びだが、2008年から2009年にかけて10%以上の伸びとなっている。
また、年収ラボのランキングによると、王将フードサービスの平均給与は、外食産業における丼・麺・カレー業界において、13番目となっている。(一位:吉野屋HD、二位:リンガーハット、三位:テンコーポレーション)

・経営理念
経営理念として明確な表現は無いものの、「より美味しく、より安く、スピィーディーに」を信条に経営している事が示されている。

4. ビジネスモデル
王将フードサービスでは、以下の表のように中華事業とその他の事業を行っている。

中華事業においては、経営理念である「より美味しく、より安く、スピィーディーに」をコンセプトにした「餃子の王将」の単一業態にこだわりを進化させる事を目標としている。また、セントラルキッチンシステムを用いる事で、一括仕入れ、大量一次加工によるコストダウンも図る。一方で、セントラルキッチンでの一次加工は限定されたアイテムに絞り、店舗での手作りを重視している。同社は全国にサービスを展開しているものの、店舗毎の独自サービスを展開しており、学生向けサービス等の地域ごとの特色あるサービスが存在する。この事のことから、各店長の経営能力が同社の事業におけるキーとなると考える。

・バリュードライバー
中華料理が低価格で味わえるというイメージが浸透している事、及びセントラルキッチン方式等によるコスト低減努力と共に、各店舗にて展開している独自サービスが固定客を引きつけていると考える。

・競合企業の分析
競合企業としては、外食産業全般が競合企業となる。また外食産業の中においても、ROICツリー分析で用いたような、吉野屋HD、リンガーハット、松屋フーズ、ハイデイ日高等が、業態においても競合企業となる。

5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。過去5年を通して売上高、営業利益共に伸びているが、それ以上に純利益が大きな伸びを示している。但し、2005年については、特別損失として約30億円を計上しており、これが純利益を押し下げた原因となっている。また、2005,2006年は実効税率がそれぞれ56.2%, 67.2%と2007年以降の43%~45%と比べて非常に高くなっており、その事も純利益を押し下げている。尚、直近の3年で見るとそれぞれの成長率は、売上高16.45%, 営業利益13.67%, 純利益28.33%となる。一方、原価率、販管費率においては過去5年を通して大きな変化はないが、微少ではあるが原価率、販管費率の上昇傾向がみられる。その為、総額として営業利益、純利益の増加は規模が大きくなった事による効果が大きいと考える。
過去5年を通して流動比率が100%を大幅に切っており、流動負債が流動資産よりも大きい状態が続いている。具体的には、1年以内に返済予定の長期借入金等の金額が、現金及び現金同等物を大きく上回っている。しかしながら同社の売上はほぼ常に現金収入と考える事が出来る為、現時点ではこの状況が問題になっていないと考える。しかしながら、もし何らかの理由により全社的に営業の継続性に問題が生じた場合、すぐに現金のショートが発生する可能性は否定できないとも思われる。
また、同社のBSでは有形固定資産が全資産の70%程度を占めており、その中でも建物・土地が大きな割合を占めている。その為、有価証券報告書の事業リスクにも記述があるが、土地等の時価が大きく減少した場合は、BSが大きく毀損する可能性がある。
資産合計、負債合計、資本合計の推移を見ると、資産合計は徐々に増加傾向にあるものの、負債については2006年3月期以降250億円程度で推移している。さらに同社が運営している店舗数を調べると、ここ最近の店舗数増は主に直営店の増加という事が分かる。また、キャッシュフローについても、投資CFは営業CF以内で収まっており、財務CFもマイナスで推移している。以上の事から、ここ数年の財務戦略としては、事業から得られたキャッシュフローを基に、自己資本を中心に資産を拡大していくと言う方針を見る事が出来る。
(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。)

事業セグメント別、所在地セグメント別の売上、営業利益率について
同社では、全セグメントの売上高及び資産における中華事業の割合及び国内の割合がいずれも90%を超えている事から、事業別セグメント、所在地別セグメント情報は公開していない。

資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。全社的なROICの推移としては、負債ベース、資産ベース共にやや増加傾向となる。詳細について調べると、負債ベースについては、資本が増加傾向にあるものの、有利子負債が減少傾向であるため、投下資本の増加が抑えられている一方、資産ベースについては、事業用運転資金が実質的にマイナス(売掛金・受取手形+たな卸し資産<支払手形・買掛金)となっており、これが拡大している事が、投下資本の増加を抑えている理由となる。

ROICツリー分析
王将フードサービスの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、王将フードサービスと同様なサービスを展開している、吉野屋HD、リンガーハット、ハイデイ日高を選択した。
ROICツリーをみると、これらの企業の中では王将フードサービスが最も高いROICとなる。同社のNOPLAT対売上比は4社の中ではもっとも高いものの、投下資本回転率は最も低い値となっている。営業利益率を分解すると、売上原価はハイデイ日高の方が低いものの、販管費率が4社の中では最も低く、これにより営業利益が最も高い値となる。投下資本効率について分解すると、固定資産回転率が最も低い事が、投下資本効率を押し下げている理由となる。
また、同業界における傾向としては、原価率が30%前後、販管費率60%前後が一つの目安になると考える。また、運転資本回転率が非常に高い値もしくはマイナスである事は、売上がほぼ現金である事が期待できる為、手元のキャッシュを圧縮できるというこの業界の特徴と言える。

6. 資本政策の分析
・配当
2008年3月期の有価証券報告書より、中期的な配当性向として30%を目標にする事が明記されている。また、過去の配当額、配当性向は以下の表の通りとなり、配当性向についてはぶれが大きいものの、今後は30%程度で推移していくと考える。

・自社株買い
2009年3月31日現在において、1,452,300株(発行済み株式の約6.23 %)の自己株式を所有しており、その多くの株式は、2007年3月期に購入されている。その後は積極的に自社株買いを行っている様子は無い。

・資金調達
ここ近年、自己資本率が上昇している事から、有利子負債が削減傾向にあり、一方で自己資本が拡充傾向にある事が分かる。また、今後の方針について明確に述べている訳では無いが、同社のIRに伺った所、自己資本(営業CF)を中心に資金調達を行っていく方針との事である。

7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:自分勝手割引率として10.0%とする。
有利子負債コスト:社債及び、各種借入金の平均利率0.86%となる。
WACC:時価ベースでみた株式コストと、有利子負債コストの加重平均をとった結果、WACCは7.40%となる

・売上高
同社が予想する2009年の売上高は約576億円(前期比4.8%増)となっているが、現時点(4月~8月)における月次売上高動向を見ると、第二四半期累計で22.7%の伸びとなっている。そこで、2009年3月期の売上成長率はやや保守的に見積もり15%程度の成長を仮定する。
一方で、昨年後半から売上高が大きく伸びているものの、翌期以降は売上の成長が落ち着き、中期的には3%~1%程度の売上高成長に落ち着くと仮定する。

・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の過去の推移は30%後半から31%程度となっている事から、今後の原価率もやや保守的に31%程度と仮定する。
販管費における変動費の割合は、有価証券報告書における主な販売管理費の費目から類推して、全体の25%が変動費になると仮定した。また、固定費成長率については過去の直営店舗数の伸びから4%程度の値と仮定する。

・減価償却費
過去の減価償却は、売上高比の3%後半から4%代なので、今後も同様程度の減価償却を行うと仮定する。

・設備投資
過去の設備投資は、売上高比の4%~5%程度となっている事、また同社のIRから設備投資は25億~30億を予定しているという話を得たので、そのレベルの設備投資を行うと仮定する。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
非事業用資産は保持していない。

・実効税率
2009年の有価証券報告書より44.6%と仮定した。

8. バリュエーション 
2009年10月1日の株価2,815円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:2,904円 乖離3%

9. IR関連
同社のIRサイトには、決算短信、月次情報等のPDFファイルがあるが、有価証券報告書がIRサイトからダウンロード出来ない点は改善して欲しいと思う。直近の売上の月次情報は非常に参考になるが、過去数年分の推移まで参照できるようになると、より過去との比較が容易になると考える。
また、同社のIR部門に対して、設備投資、今後の店舗展開、資金調達方法について直接聞いたところ、以下のような回答を頂いた。設備投資に付いては、過去30億円弱で推移しており、今後も同程度の推移を見込んでいる。今後の店舗展開については、毎年10~20店舗程度の展開を見越している模様である。人材育成等の問題があるため、1年で40~50店舗程度の大規模な展開は考えてないとの事。また、資金調達については、基本的に自己資本(投資CFは営業CF以内に収める)を考えているものの、金融機関との関係性を保つ為に、純有利子負債については100億程度を保持する予定との事である。
総じて、担当者の方からはこちらの質問に対してレスポンス良く明確な返答を頂く事が出来たと感じた。

10. まとめ
株価 2815円(2009年10月1日終値)に対し、理論株価は 2904円となり乖離率は3%となる。同社の月次情報によると、直営店全店ベースでは平成15年7月より 74ヶ月連続、既存店ベースでは平成19年8月より25ヶ月連続して売上高対前年同月比で100%超を更新中となっている。また、2008年後半以降は「王将ブーム」となっており、昨年度後半から現在に掛けて二桁ペースで売上が伸びており、売上については非常に好調を維持している。
同社のIRに対してこの点について伺ってみたところ、ブームについては認識しているものの、現状の二桁成長が今後も続く可能性は厳しいと見ており、対応については非常に落ち着いたものを感じる事が出来た。また、同社では店舗毎の独自性を重視している事から、店長クラスの人材育成が非常に重要な点となる。その為、FC展開については、同社社員による「のれん分け」の形が多く、全くの外部からのFC展開は少ない模様。外部からFC展開したいという要請があった場合についても、数年間既存店にて技術・経営についての習得期間を設けている模様である。この事は、「王将フードサービス」として成長を目指すものの、単なる企業としての「膨張」にならないように意識している事を見て取る事が出来た。
一方、株価についても「王将ブーム」と共に昨年9月頃の1,500円前後から3,000円弱へと大きく株価が伸びており、これにより株価と理論株価がほぼ均衡している。その為、現時点から割安度を狙って投資することはやや厳しいと考える。しかしながら同社について調べた限りまた、IRに質問した事から受ける印象は、地に足を付けた経営をしているという印象である為、中長期的に割安になるのを待ってから投資する対象にはなると考える。