1. はじめに
本レポートは株式会社王将フードサービス (証券コード:9936)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年9月下旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。
2. 要旨
株価 2,815円(2009年10月1日終値)に対し、理論株価は 2,904円となり乖離率は3%となる。2008年後半からの「王将ブーム」により、売上・株価共に大きく上昇している事から、株価はフェアバリュー近辺となる。一方、有報等を調べた限りまた、IRとのやりとりから、同社の経営については、ブームに惑わされずに堅実な経営をしていると考える。
3. 企業概要
会社名:株式会社王将フードサービス(証券コード:9936)
設立:1974年7月
上場:1995年1月大阪証券取引所二部・京都証券取引所上場、2006年3月大阪証券取引所一部上場
事業概要:中華料理を主体とした直販レストランチェーン及び、フランチャイズ加盟店への中華食材の販売及び、和食専門店の運営。
経営陣:2009年6月提出の有価証券報告書より
略歴を見る限り、人事部長の是枝秀紀氏を除き、他の取締役は入社してから20年以上経過している。3名の監査役の内、2名が社外監査役ではあるが、取締役については全員が社内取締役となっている。また、経営陣が保有する株式の総数は、発行済み株式における3%程度となるため、経営陣が株式の議決権に直接的に及ぼす影響は殆ど無い。
大株主:2009年6月提出の有価証券報告書より
業務提携をしているアサヒビール株式会社が現時点における筆頭株主となっている。また、創業家一族(加藤家)も大株主として名前を連ねている。その事もあり、上位10大株主が持つ議決権の割合は全体の50%を超える事となる。
従業員数(連結): 1,540人 (2009年3月31日時点)
2006年から2008年にかけての従業員数は、2%程度の伸びだが、2008年から2009年にかけて10%以上の伸びとなっている。
また、年収ラボのランキングによると、王将フードサービスの平均給与は、外食産業における丼・麺・カレー業界において、13番目となっている。(一位:吉野屋HD、二位:リンガーハット、三位:テンコーポレーション)
・経営理念
経営理念として明確な表現は無いものの、「より美味しく、より安く、スピィーディーに」を信条に経営している事が示されている。
4. ビジネスモデル
王将フードサービスでは、以下の表のように中華事業とその他の事業を行っている。
中華事業においては、経営理念である「より美味しく、より安く、スピィーディーに」をコンセプトにした「餃子の王将」の単一業態にこだわりを進化させる事を目標としている。また、セントラルキッチンシステムを用いる事で、一括仕入れ、大量一次加工によるコストダウンも図る。一方で、セントラルキッチンでの一次加工は限定されたアイテムに絞り、店舗での手作りを重視している。同社は全国にサービスを展開しているものの、店舗毎の独自サービスを展開しており、学生向けサービス等の地域ごとの特色あるサービスが存在する。この事のことから、各店長の経営能力が同社の事業におけるキーとなると考える。
・バリュードライバー
中華料理が低価格で味わえるというイメージが浸透している事、及びセントラルキッチン方式等によるコスト低減努力と共に、各店舗にて展開している独自サービスが固定客を引きつけていると考える。
・競合企業の分析
競合企業としては、外食産業全般が競合企業となる。また外食産業の中においても、ROICツリー分析で用いたような、吉野屋HD、リンガーハット、松屋フーズ、ハイデイ日高等が、業態においても競合企業となる。
5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。過去5年を通して売上高、営業利益共に伸びているが、それ以上に純利益が大きな伸びを示している。但し、2005年については、特別損失として約30億円を計上しており、これが純利益を押し下げた原因となっている。また、2005,2006年は実効税率がそれぞれ56.2%, 67.2%と2007年以降の43%~45%と比べて非常に高くなっており、その事も純利益を押し下げている。尚、直近の3年で見るとそれぞれの成長率は、売上高16.45%, 営業利益13.67%, 純利益28.33%となる。一方、原価率、販管費率においては過去5年を通して大きな変化はないが、微少ではあるが原価率、販管費率の上昇傾向がみられる。その為、総額として営業利益、純利益の増加は規模が大きくなった事による効果が大きいと考える。
過去5年を通して流動比率が100%を大幅に切っており、流動負債が流動資産よりも大きい状態が続いている。具体的には、1年以内に返済予定の長期借入金等の金額が、現金及び現金同等物を大きく上回っている。しかしながら同社の売上はほぼ常に現金収入と考える事が出来る為、現時点ではこの状況が問題になっていないと考える。しかしながら、もし何らかの理由により全社的に営業の継続性に問題が生じた場合、すぐに現金のショートが発生する可能性は否定できないとも思われる。
また、同社のBSでは有形固定資産が全資産の70%程度を占めており、その中でも建物・土地が大きな割合を占めている。その為、有価証券報告書の事業リスクにも記述があるが、土地等の時価が大きく減少した場合は、BSが大きく毀損する可能性がある。
資産合計、負債合計、資本合計の推移を見ると、資産合計は徐々に増加傾向にあるものの、負債については2006年3月期以降250億円程度で推移している。さらに同社が運営している店舗数を調べると、ここ最近の店舗数増は主に直営店の増加という事が分かる。また、キャッシュフローについても、投資CFは営業CF以内で収まっており、財務CFもマイナスで推移している。以上の事から、ここ数年の財務戦略としては、事業から得られたキャッシュフローを基に、自己資本を中心に資産を拡大していくと言う方針を見る事が出来る。
(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。)
事業セグメント別、所在地セグメント別の売上、営業利益率について
同社では、全セグメントの売上高及び資産における中華事業の割合及び国内の割合がいずれも90%を超えている事から、事業別セグメント、所在地別セグメント情報は公開していない。
資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。全社的なROICの推移としては、負債ベース、資産ベース共にやや増加傾向となる。詳細について調べると、負債ベースについては、資本が増加傾向にあるものの、有利子負債が減少傾向であるため、投下資本の増加が抑えられている一方、資産ベースについては、事業用運転資金が実質的にマイナス(売掛金・受取手形+たな卸し資産<支払手形・買掛金)となっており、これが拡大している事が、投下資本の増加を抑えている理由となる。
ROICツリー分析
王将フードサービスの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、王将フードサービスと同様なサービスを展開している、吉野屋HD、リンガーハット、ハイデイ日高を選択した。
ROICツリーをみると、これらの企業の中では王将フードサービスが最も高いROICとなる。同社のNOPLAT対売上比は4社の中ではもっとも高いものの、投下資本回転率は最も低い値となっている。営業利益率を分解すると、売上原価はハイデイ日高の方が低いものの、販管費率が4社の中では最も低く、これにより営業利益が最も高い値となる。投下資本効率について分解すると、固定資産回転率が最も低い事が、投下資本効率を押し下げている理由となる。
また、同業界における傾向としては、原価率が30%前後、販管費率60%前後が一つの目安になると考える。また、運転資本回転率が非常に高い値もしくはマイナスである事は、売上がほぼ現金である事が期待できる為、手元のキャッシュを圧縮できるというこの業界の特徴と言える。
6. 資本政策の分析
・配当
2008年3月期の有価証券報告書より、中期的な配当性向として30%を目標にする事が明記されている。また、過去の配当額、配当性向は以下の表の通りとなり、配当性向についてはぶれが大きいものの、今後は30%程度で推移していくと考える。
・自社株買い
2009年3月31日現在において、1,452,300株(発行済み株式の約6.23 %)の自己株式を所有しており、その多くの株式は、2007年3月期に購入されている。その後は積極的に自社株買いを行っている様子は無い。
・資金調達
ここ近年、自己資本率が上昇している事から、有利子負債が削減傾向にあり、一方で自己資本が拡充傾向にある事が分かる。また、今後の方針について明確に述べている訳では無いが、同社のIRに伺った所、自己資本(営業CF)を中心に資金調達を行っていく方針との事である。
7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:自分勝手割引率として10.0%とする。
有利子負債コスト:社債及び、各種借入金の平均利率0.86%となる。
WACC:時価ベースでみた株式コストと、有利子負債コストの加重平均をとった結果、WACCは7.40%となる
・売上高
同社が予想する2009年の売上高は約576億円(前期比4.8%増)となっているが、現時点(4月~8月)における月次売上高動向を見ると、第二四半期累計で22.7%の伸びとなっている。そこで、2009年3月期の売上成長率はやや保守的に見積もり15%程度の成長を仮定する。
一方で、昨年後半から売上高が大きく伸びているものの、翌期以降は売上の成長が落ち着き、中期的には3%~1%程度の売上高成長に落ち着くと仮定する。
・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の過去の推移は30%後半から31%程度となっている事から、今後の原価率もやや保守的に31%程度と仮定する。
販管費における変動費の割合は、有価証券報告書における主な販売管理費の費目から類推して、全体の25%が変動費になると仮定した。また、固定費成長率については過去の直営店舗数の伸びから4%程度の値と仮定する。
・減価償却費
過去の減価償却は、売上高比の3%後半から4%代なので、今後も同様程度の減価償却を行うと仮定する。
・設備投資
過去の設備投資は、売上高比の4%~5%程度となっている事、また同社のIRから設備投資は25億~30億を予定しているという話を得たので、そのレベルの設備投資を行うと仮定する。
・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。
・非事業用資産
非事業用資産は保持していない。
・実効税率
2009年の有価証券報告書より44.6%と仮定した。
8. バリュエーション
2009年10月1日の株価2,815円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:2,904円 乖離3%
9. IR関連
同社のIRサイトには、決算短信、月次情報等のPDFファイルがあるが、有価証券報告書がIRサイトからダウンロード出来ない点は改善して欲しいと思う。直近の売上の月次情報は非常に参考になるが、過去数年分の推移まで参照できるようになると、より過去との比較が容易になると考える。
また、同社のIR部門に対して、設備投資、今後の店舗展開、資金調達方法について直接聞いたところ、以下のような回答を頂いた。設備投資に付いては、過去30億円弱で推移しており、今後も同程度の推移を見込んでいる。今後の店舗展開については、毎年10~20店舗程度の展開を見越している模様である。人材育成等の問題があるため、1年で40~50店舗程度の大規模な展開は考えてないとの事。また、資金調達については、基本的に自己資本(投資CFは営業CF以内に収める)を考えているものの、金融機関との関係性を保つ為に、純有利子負債については100億程度を保持する予定との事である。
総じて、担当者の方からはこちらの質問に対してレスポンス良く明確な返答を頂く事が出来たと感じた。
10. まとめ
株価 2815円(2009年10月1日終値)に対し、理論株価は 2904円となり乖離率は3%となる。同社の月次情報によると、直営店全店ベースでは平成15年7月より 74ヶ月連続、既存店ベースでは平成19年8月より25ヶ月連続して売上高対前年同月比で100%超を更新中となっている。また、2008年後半以降は「王将ブーム」となっており、昨年度後半から現在に掛けて二桁ペースで売上が伸びており、売上については非常に好調を維持している。
同社のIRに対してこの点について伺ってみたところ、ブームについては認識しているものの、現状の二桁成長が今後も続く可能性は厳しいと見ており、対応については非常に落ち着いたものを感じる事が出来た。また、同社では店舗毎の独自性を重視している事から、店長クラスの人材育成が非常に重要な点となる。その為、FC展開については、同社社員による「のれん分け」の形が多く、全くの外部からのFC展開は少ない模様。外部からFC展開したいという要請があった場合についても、数年間既存店にて技術・経営についての習得期間を設けている模様である。この事は、「王将フードサービス」として成長を目指すものの、単なる企業としての「膨張」にならないように意識している事を見て取る事が出来た。
一方、株価についても「王将ブーム」と共に昨年9月頃の1,500円前後から3,000円弱へと大きく株価が伸びており、これにより株価と理論株価がほぼ均衡している。その為、現時点から割安度を狙って投資することはやや厳しいと考える。しかしながら同社について調べた限りまた、IRに質問した事から受ける印象は、地に足を付けた経営をしているという印象である為、中長期的に割安になるのを待ってから投資する対象にはなると考える。
2009/10/02
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿