2009/10/09

株式会社トーセ(4728)

1. はじめに
本レポートは株式会社トーセ (証券コード:4728)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年10月上旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2. 要旨
株価 619円(2009年10月7日終値)に対し、理論株価は 549円となり乖離率は-11%となる。ここ近年、売上、従業員共に拡大してきたが、来期は売上の減少が予測されており、一つの曲がり角に来ていると言える。また、この先行きが非常に不透明な業界である事もあり、割引率をやや高めに設定した。一方、過去業績等を調べて見る限り、同社の経営陣は堅実な経営を心がけているように見える。

3. 企業概要
会社名:株式会社トーセ(証券コード:4728)
設立:1979年11月
上場:1999年8月大阪証券取引所第二部・京都証券取引所上場。2000年9月東京証券取引所第二部上場。2001年8月、東京証券取引所第一部、大阪証券取引所第二部に指定。
事業概要:ゲームソフト、モバイル・インターネットに関する企画、開発、運営などの業務受託を中心に、顧客サポートを行う。
経営陣:2008年11月提出の有価証券報告書より
CEOの斎藤茂氏と、執行役員知的財産管理室長の齋藤真也氏は、取締役会長の齋藤豊氏の長男と次男である。三氏は同社における主要な株主でもある事から、経営に対して大きな影響力を持っていると考える。また、経営陣の年齢をみると、最高齢は斎藤豊氏の81才となり、齋藤真也の43才が最も若く、取締役、監査役を含めた平均年齢は、60.3才となる。齋藤茂氏、早川郁久氏、齋藤真也氏、渡辺康人氏が年齢的に50代前半から40代となる事から、実質的には彼らが同社の経営を行っていると考える。

大株主:2008年11月提出の有価証券報告書より
創業家一族と思われる斉藤家(齋藤茂氏、齋藤真也氏、齋藤豊氏、齋藤一枝氏)が持つ議決権の割合が35.13%と全議決権の1/3を超えており、特別決議を否決出来る状況となっている。

従業員数(連結): 743人 (2008年8月31日時点)
このレポートを書いている2009年10月上旬においては、まだ2009年8月期の有価証券報告書が提出されていない為、従業員については2004年8月期から2008年8月期までの5年間について調べた。
これをみると、ゲームソフト開発部門、モバイル・インターネット部門共に年々従業員数が増えており、5年間のCAGRは12%~13%台となっている。また、その結果として連結及び単体の従業員数も同様に伸びている事が分かる。一方、単体における平均年齢及び平均勤続年数については殆ど変化がみられないが、これは毎年ほぼ10%以上の割合で従業員数が増えている事が大きな理由であると考える。従業員数の推移から見ると、同社は過去5年でほぼ倍近くに成長している企業となる。

・経営方針
経営方針としては「縁の下の力持ち」を合い言葉に、受託開発に徹することで多くのクライアントから信頼を得ていく方針である。自社ブランドにてゲームを発売しない理由としては、自社ブランドソフトを発売することで、クライアントが競争相手になり現在のような取引が出来なくなる恐れがある為としている。

4. ビジネスモデル
トーセでは、以下の表のようにゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業及びその他の事業を行っている。

同社における売上の仕組みとしては以下の3つから構成されている。売上としてのボリュームの大きさは、開発売上>運営売上>ロイヤリティ売上となっている模様である。また、売上の確度としては、開発売上、運営売上はある程度の予測が立てられるものの、ロイヤリティ売上は予測が非常に難しいとの事である。一方ロイヤリティ売上は、すでに開発が完了したソフトに対する売上となる為、売上をたてる為の原価等は特に必要のない売上となる。

・バリュードライバー
自社の名前を前面に押し出さず、特定のゲームパブリッシャーに縛られずに受注する事が可能となる。また、ゲームソフト開発工程における、企画、シナリオ作成、デザイン、プログラミング、音楽・効果音作成、デバッグ(動作チェック)の全ての行程を受注できる為、ゲームソフトの規模が拡大し、開発期間の長期化や開発コストが増大する中で、その全ての工程を受託できる事が出来る同社は、他社に対して優位なポジションにあると考える。

・競合企業の分析
競合企業としては、ゲームソフト、モバイルソフトの受託開発会社全般になると考える。同社のウェブページ上にあるQ&Aによると、ゲームソフト開発工程の全てにおいて対応可能である会社は、国内でも数少ないとある。経営方針で述べたように、自社ブランドを全面に出さない為、所謂パブリッシャーとは競合関係にならない。

5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。売上高は年率10%弱で成長しているが、営業利益についてはほぼ横ばいもしくはやや減少傾向となっている。販管費率は減少傾向にあるものの、原価率が一貫して上昇傾向にあるため、これが営業利益率を押し下げている原因となる。「従業員数」の所で述べたように、連結、単体共に従業員数が年率10%以上で上昇している事から、この人件費が原価率を悪化させている一つの原因となる。またゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業の要員が増えているものの、人員の増加に対して内部体制が追いつかず、業務効率等の低下が起きているとも考えられる。
流動比率、自己資本比率共に高い値となっており、直近においては財務状況に大きな不安は無いと言える。負債の中身としては、未払い法人税、前受金、役員退職慰労引当金等が主な項目となり、有利子負債を持っておらず無借金経営となる。尚、過去5期を通して同社は無借金経営を行っている。
同社のキャッシュフローを見ると、営業キャッシュフローよりも投資キャッシュフローが大きい年もしくは同等となっている年が多い。投資キャッシュフローの詳細をみてみると、多くは「定期預金の預け入れ」「投資有価証券の支出」が占めている事が分かる。「有形固定資産の取得」も毎年行われているが、上記二つの支出に比べるとトータルに占める割合は少なくなる。この事から、投資キャッシュフロー(マイナス)が、営業キャッシュフロー(プラス)よりも大きい年が多いものの、将来への成長・拡大へ向けた投資を行っている訳では無いと判断する。また、2009年8月期は、投資キャッシュフローがプラスになっているが、これは「定期預金の払い戻し」が約12億円あり、このインパクトが大きい為となる。
資産、負債、資本については5年間で大きな変化は見られない。また、資産の内訳についても、流動資産が55%~60%前後、有形固定資産が13~20%程度、投資有価証券が18~23%程度となっており、この割合についても大きな変化は無い。
(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。)

事業セグメント別の売上、営業利益率について
事業別セグメント別の売上、営業利益については以下の通りとなる。全体の傾向としては、ゲームソフト開発事業が売上の50~60%、モバイル・インターネット開発事業が30%前後、残りをその他の事業が占める。また、ゲームソフト開発事業、モバイル・インターネット開発事業共に売上の成長度合いとしては5%程度と同じような伸び率である一方、その他の事業は2008年、2009年と大きく伸ばしている。
営業利益を見てみると、各事業が占める営業利益の割合についても売上と同じような割合になる。これは、大きな割合を占めるゲームソフト開発事業とモバイル・インターネット開発事業の営業利益がほぼ同じ為となる。また、営業利益、営業利益率共に2007年をピークに下落傾向となっている。両事業における営業利益率が低下している原因については明示されていないが、ここ近年、従業員数を大きく増やしている事から、固定費となる人件費が原価の上昇圧力になっている事が想像できる。それにより原価における固定費部分が年々増えた為、売上が横ばいもしくは下落した際、従来よりも営業利益の下落圧力が高まっている可能性が考えられる。近年、従業員数を増やしてきたことと、来期の見通しにおいても売上高の減少を見込んでいる事から、営業利益率の改善はしばらくの間、難しいと考える。
(注意:事業別セグメントにおける営業利益率の計算において、営業利益における消去分については考慮していない。各事業における「儲け力」を部門別、年度別に比較する事が主な理由である為となる。)

所在地セグメント別の売上、営業利益率について
同社では、全セグメントの売上高及び資産における国内の割合が90%を超えている事から、所在地別セグメント情報は公開していない。

資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。営業利益率同様に2007年をピークに減少している。また、ここ数年、負債ベース、資産ベース共に投下資本の総額については変化が無い。その為、営業利益の回復と共に、資本効率も上昇していくものと考える。

ROICツリー分析
トーセの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、トーセと同じゲーム業界に属する、任天堂、スクエア・エニックス、日本ファルコムを選択した。尚、投下資本回転率については、任天堂、スクエア・エニックス、日本ファルコム共に非常にキャッシュリッチな会社である為、投下資本の計算に現金の一部(現金及び現金同等物-運転資金)を参入して計算している。
ゲーム業界に属するとはいえ、各社によって業態が異なる為に純粋なROICツリーの比較は出来ないが、ROICツリーの内容が各社によって大きく異なっている事が特徴と言える。また、そのなかで目立つ点としては、任天堂における営業利益率の高さ及びそこから導かれるROICの高さとなる。トーセについては、売上原価率が他社よりも高い点が目立つ。トーセの原価率は過去5年一貫して上昇しているが、2005年8月期においても原価率は65.38%と他社の水準よりも高く、事業構造として売上原価率が高い仕組みになっていると言える。

6. 資本政策の分析
・配当
近年は中間配当、期末配当を合わせて一株25円の配当を行っている。配当性向に関する目標設定に関する記述は見られない事から、配当金額を固定していく方針の様に見える。その事から、2009年9月期については、配当総額(約1億8千万円)が純利益(約9千9百万円)を超える見込みであり、配当性向が100%を超える。

・自社株買い
2009年8月31日現在において、319,225株(発行済み株式の約4 %)の自己株式を所有しており、約200,000株が、2009年3月期に購入されている。過去5年間は、未単元株の買い取り等を除いて自社株買いを積極的に行った形跡はない。

・資金調達
過去の経緯を見る限り、資金調達については有利子負債を用いずに自己資本を用いる方針であると考える。また、ROICツリー比較時に用いた各社を調べても、有利子負債を持たないか、有利子負債は存在するが額としては現金保有高以下となっており、実質的に無借金経営をしている会社となっている。

7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:ゲーム業界という当たり外れのリスクが大きい業界であるものの、同社は自らの名前を全面に押し出さず、数多くのメーカーと組むことでビジネスリスクの分散を行っているとも言える。そこで、割引率としては、やや高めの15%とする。
有利子負債コスト:有利子負債は無い。
WACC:
有利子負債が無い事から、資本コスト=WACCとなる。

・売上高
同社が予想する2010年8月期の売上高は約53.8億円(前期比-11.7%)となっているのでこの値を用いる。今後の見通しについては、ゲーム業界及び、その他の事業で行っているパチンコ業界共に、非常に予測が難しい業界である。そこで、大まかな予想として、2011年度は2010年と同程度の売上とし、2012年から徐々に売上が回復していくと予想する。但し、売上の成長率としては2~5%程度と見込む。

・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の過去の推移は2005年8月期の65%程度から2009年3月期の77.1%まで大きく上昇している。これは主に人員の増加が理由となって売上原価の一部が固定費化していると考える。一方で、これまで採用してきた従業員が徐々に有効に活用出来てくる可能性も考え、原価率としては同程度の77%とする。また、今後の見通しとしては、売上の増加及び従業員における作業の効率化を通して原価率も低下していくと予想する。
販管費における変動費の割合は、有価証券報告書における主な販売管理費の費目から類推して、全体の90%が変動費になると仮定した。また、固定費成長率については2%程度の値と仮定する。

・減価償却費
過去の減価償却は、売上高比の1%~2%程度なので、今後も同様程度の減価償却を行うと仮定する。

・設備投資
従来の設備投資額は5,000万~1億円程度だったのだが、2009年8月期に有形固定資産の取得として4億円程度の支出があった。同社によるとこれは作業効率向上と経費削減を目的として、京都市に新たな事業拠点を取得する為の費用であるとのこと。今後の設備投資の見通しとしては従来と同程度との事。そこで設備投資額としては1億弱の規模と仮定する。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
外国債を約9,500万円保持しているので、これを非事業用資産として参入する。

・実効税率
過去5期における実効税率の平均が52.4%だった事もあり、この値を用いる。

8. バリュエーション 
2009年10月7日の株価619円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:549円 乖離-11%


9. IR関連

同社のIRサイトには、決算短信、有価証券報告書が過去9年分を遡ってダウンロード出来るようになっており、基本的な情報はここから取得出来るようになっている。
また、同社のIR部門に対して、設備投資、従業員数、今後の見通しなどについて伺った所、以下のような回答を頂いた。設備投資に付いては、バリュエーションの所で述べたとおり、今期は事業拠点取得の為の支出があるものの、今後については以前と同程度を見込んでいる模様。従業員の採用に関しては、ここ近年大きく伸ばしているものの、売上状況が厳しい事もありしばらくは、新規採用については抑え気味とする予定である。また、原価率が悪化している事については、新規採用したメンバーの作業効率が上がっていない事があげられるが、これらのメンバーについても徐々に作業効率の上昇が見込まれている事もあり、それに合わせて原価率も向上していく見込みの模様である。今後の見通しについては、ゲーム業界、パチンコ業界共に、同社においてもこの先の見通しは非常に不透明であるとの事だった。
総じて、担当者の方からはこちらの質問に対してレスポンス良く明確な返答を頂く事が出来たと感じた。

10. まとめ
株価 619円(2009年10月7日終値)に対し、理論株価は 549円となり乖離率は-11%となる。同社は近年売上と共に人員も大きく拡大してきたが、金融危機による経済活動全般の低迷及び個人消費低迷をきっかけにした、ゲーム機器、ゲームソフトの販売低迷によるゲームタイトル開発のストップ、開発規模の縮小、引き合いから受注確定に致までの期間の長期化等の外部環境により来期以降は売上の減少が見込まれる。これは同社の業績が現在、一つの曲がり角に来ていると言える。
一方、同社の強みとしては、「縁の下の力持ち」に徹することにより、数多くのゲーム機器メーカー、ゲームソフトメーカーと組むことでビジネスリスクを分散させている事といえる。一方で、受託開発に特化する事は、売上が常に外部環境に大きく依存しているとも言える。その為、同社の将来売上についても景気環境等に大きく依存すると考える。
その様な環境の中、同社としては新規採用を抑制する事や、作業効率向上・経費削減を意図した新規業務拠点の設置を予定しているなど、現状に対応する為の施策もあり、また、近年採用してきた従業員の業務習熟度、作業効率が上昇していく事も見込まれる。以上の事から、同社の先行きは非常に不透明であり、外部環境に依存しているというビジネスの構造は大きく変化しないと考えるものの、同社の過去業績等を調べる限りは変化に対応できる経営力を有していると考える。
現在は先行きが不透明である為、割引率を高めに設定したバリュエーションとなっているが、ある程度先が見えてきた段階で、改めてバリュエーションを見直す事が必要となるかもしれないとも考える。

2 件のコメント: