2010/03/29

企業価値評価の手順等について

番外編ではあるが、ここで企業価値分析を行う上での手法、及び気をつけているポイント等をまとめてみました。ざっくりとまとめた段階なので、もしかしたら今後も定期的にアップデートするかもしれません。(2010/03/29)


1,企業価値分析を行う上での情報源
・有価証券報告書
EDINET から取得

・各企業のWebサイトから得られる各種IR資料
(決算説明会資料(年次、四半期)、決算短信、適時開示資料など)

・その他各社のサービス、製品名で行った検索結果


2,企業価値分析を行う手順
ここで行っている企業価値の手順としては主に以下の様な手順で行っている。

 A) 企業に関連する主なステークホルダーのチェック(経営者、株主、従業員(、取引先))
 B) 過去業績分析(ビジネスモデル、過去業績(売上、各セグメント毎、資本効率)、ROICツリー、資本政策等)
 C) IR部門への質問
 D) 将来業績予測からDCFに基づき理論株価算出

理屈としては、株主から見た企業価値は将来FCFをDCFで一定に割り引いた値から算出されるが、情報無しに将来の事を予測するのは難しい。また、企業とは関連するステークホルダーによる営みと考える事ができ、これらのステークホルダーによって対象企業の将来業績が形作られる。そこで、将来業績予測を行う為に、まずはどのようなステークホルダーが存在しており、過去においてどのようなビジネスの元で業績を重ねてきたかを調べる事をここでは主に重視している。

A) 企業に関連する主なステークホルダーのチェック
ここでは主に、経営者(役員)、株主、従業員について注目する。

経営陣(役員):
企業の意思決定において最も重要な役割を果たすのが取締役であるという視点から取締役を注目する。特に以下のポイントを注目する。
・取締役が保有する議決権(株式)の割合
・取締役の年齢および、該当企業との関わりを持ち始めた日付
・社外取締役の数

株主:
株主については、誰がどれだけ議決権を持っているか注目する。特定の経営陣が大株主である場合は、その者が持つ影響力が非常に大きいと判断する。但し、経営者と大株主が同一である事が、すぐに会社の経営にとって悪影響があるとは判断しないが、配当を行っている場合は少々注意する。また、可能ならば過去の株主の推移もチェックする。

従業員:
従業員数の過去の推移を調べ、拡大傾向ならばその企業における事業が拡大傾向であると判断する。また、セグメント毎の従業員数を表示されている場合は、従業員数に動きがある事業に注目する事で、その事業の状況を判断する理由の一つとする。

B) 過去業績分析
ここでは主にビジネスモデル分析、過去業績分析(全体)、過去業績分析(セグメント)、資本効率、ROICツリー分析、過去の資本政策についての分析を行う。

ビジネスモデル分析:
有価証券報告書における、事業の内容、事業の状況等の項目から対象企業の事業内容を把握する。また、企業が発表しているIR資料(決算説明報告会資料)等も事業内容を把握するには有力な情報となる。但し、有価証券報告書とは異なり、IR資料についてはフォーマットが自由な事から、意識・無意識に関わらず企業側にとってバイアスが掛かった表現をしている可能性があるのでそこは注意する。

ビジネスモデル分析においては、「マネタイズ」「何においてそのサービス/プロダクトは価値を生み出しているか?」という事をポイントにするとより理解が深まるのではないかと考えている。

過去業績分析(全体):
過去業績分析においては過去5年程度の実績から会社の財務状態、経営成績をざっくりと判断する。

ここでは、売上高、営業利益、営業利益率といった基本的な財務指標を中心に企業の過去業績をチェックする。売上高、利益共に増加していく事が望ましいが、絶対値のみに注目するのではなく、原価率、販管費率、営業利益率についても注意を払う。絶対値が増えているが、利益率が減少し続けている場合は注意を要する。

安全性の面で、流動比率、自己資本比率にもチェックするが、これらの指標については業界毎に基準が異なるので一社だけで単純に判断するのは難しい。可能ならば同じ業界に属する複数の会社を通してチェックしたい。数値に大きな変化があった場合は、その理由について注目する。

キャッシュフローについては主に営業CFと投資CFに注目する。営業利益がプラスにもかかわらず、営業CFがマイナスである年が複数年にわたっている場合は要注意。また、営業CFに比べて投資CFが大きい状態が続いている会社の場合、将来に向けて投資CFを増やしているのか、属する業界が過当競争等に巻き込まれていないか等、その投資理由について調べる。
また、CFについても過去の推移と比べて大きな変化がある場合は、その理由に注目する。

過去業績分析(セグメント):
連結決算を行っている会社の場合、セグメント毎の情報が存在するのでそれをチェックする。ここではどの事業が実質的な経営の柱になっているか、事業毎の営業利益、営業利益率、資本効率等を調べる。営業利益、営業利益率にも注目するが、対象セグメントの資本効率(営業利益/資産)についても同様に注目する。

特に売上、利益の柱となっている事業における営業利益率、資本効率に注目する。柱となっている事業の利益率、資本効率が改善傾向にある場合、その企業は本業にリソースを注力した上でかつ、結果を出している経営力があると判断する。


資本効率:
ROIC=NOPLAT(みなし税引き後営業利益)/IC(投下資本)を資産側、負債側から過去5年程度計算する。営業利益の絶対値が拡大しているにもかかわらず、資本効率が低下傾向にある企業の場合は、ROICが低下している理由として利益側、資産側のどちらに理由があるか注意する。
また、資産における現金保有率が非常に大きい場合、資産側と負債側のROICが大きく乖離する事があるので注意する。

ROICツリー:
分析対象企業と同じ業界に属する企業を2社選び、ROICツリーを作成して各項目の比較を行う。また、対象企業、比較対象企業の規模(大会社、ベンチャー)によりROICツリーの内容が異なるので、そこは注意する。

資本政策:
資本政策としは、配当、自社株買い、資金調達方法について調べる。

配当:
政策として一定の配当性向を示しているか否かを調べる。また、配当を行った時点における事業のステージを想定し、配当する事が妥当な判断かどうか考える。また、配当が行われる場合、大株主に注目し配当により誰が最も利益を受けるか合わせて調べる。

自社株買い:
自社株買いを行っていた場合、その理由及び自社株買いを行った時点における株価が妥当であるか調べる。

資金調達:
資金調達を行っていた場合、Equity, Debtのどちらで行ったか、またその理由が妥当であるか調べる。また、過去にMSCB等を発行しているかどうかも調べる。過去においてもMSCB発行企業である場合は投資対象としない。

c) IR部門への質問
必要に応じて会社のIR部門へ電話質問を行う。質問に際しては有価証券報告書等を読み込んだ方が実りのある質問になる。質問内容としては、有価証券報告書において疑問を感じたポイントや、今後の設備投資、減価償却に関してなど。今後の設備投資、減価償却等については具体的な数値は答えて頂けないが、方向感(増加、減少、横ばい)程度ならば答えて頂ける事が多い。
また、事業の状況等についても、具体的な数値等を得る事を目的とするのではなく、質問による回答から、企業(経営陣)が把握している問題点・課題点および将来に対する自信といった事を聞き取るように心がける。これらの質問内容の結果は、将来業績予測に何らかの形で織りこむ。

D) 将来業績予測からDCFに基づき理論株価算出
将来業績予測は、過去業績分析を元にそのビジネスがどの程度伸びるか判断する。また、会社の過去業績分析といった内部情報だけに留まらず、その企業が属する業界の情報といった外部情報も可能な限り探し出したほうが良い。

以下、将来業績予測における具体的な手法に関してここで行っている事をまとめる。

・資本コストの計算
有利子負債コストは有価証券報告書における記載から計算する。
株主コストについては基本としてまずは「10%」を最低水準とする。これは個人的に株式投資をする場合のリスク認識として、少なくとも10%の利回りを期待したという所からの数字となる。但し、分析する上での感じた企業の状況等に応じて12.5%, 15%といった値を適宜用いる。

・売上高の予測
基本的には有価証券報告書にあるセグメント毎に売上高の予測を行い、その合算した値を全社売上の値とする。将来業績予測については毎回悩むところではあるのだが、過去業績分析、業界の現状・将来性等を考えて、自分が納得できそうな数字を用いる。但し、直近の予測については、特に問題を感じない限り会社発表の値を用いている。会社発表の数字には一定のバイアスがあると考えられるが、情報量等を考えるとある程度の信頼性をおける数字であると仮定している為である。また、直近では大きく売上が伸びると予想される事業についても、5−6年後からは売上の伸び率を落とすもしくは横ばい程度になるよう仮定する事が多い。

・営業費用(売上原価、販管費(固定費、変動費))、減価償却費、設備投資
これらの値については、基本的に過去の水準とほぼ同じであると仮定する場合が多い。但し、企業を調べていく上で特定の要因等を発見した場合はそれを織りこむようにする。

・会社発表の予測との整合性チェック
DCFによるモデル化を行った際、今期における会社発表の売上予測と、過去水準から用いた売上原価、販管費から計算した営業利益等が、会社発表の営業利益の予測値と大きく異なる場合は注意を要する。これはモデルおける事業構造(売上、原価、販管費(固定費、変動費))が対象企業の事業構造と大きく乖離している可能性を示唆する。その為、このような時は、原価割合、販管費割合の調整を行い、会社発表の営業利益に近くなるようにする。ここがモデルにおける整合性チェックのポイントとしている。

・割引率と売上高について
個人という立場で分析を行う為、取得できる情報量には限りがある。そこで、このポイントをリスク認識として織りこむ為に、売上高の予測はやや抑え目に、割引率はやや高目に設定する事で、安全率を2重に設定している。これは控えめな予測による機会損失よりも、楽観的な予測に基づいた投資による実損失を防ぐ事を重視している為である。


3,まとめ
ここで行っている企業価値評価の手法としてはおおよそ上記の通りとなる。

企業価値評価の一義的な目的は理論株価の算出ではあるが、より一歩踏み込んだ目的としては分析を通じていく上で企業そのものを知る事にあると考えている。理論株価は、将来業績予測は割引率を修正する事で大きく変化するものであり、ここで算出している値はあくまでも参考値程度のものでしかない。
結果的に現在算出した理論株価は割高になるかもしれないが、その企業を調べた上で将来的な投資に値する企業であると考える事が出来れば、割安になるまで待てば良いからである。

また、企業価値評価を行うと、対象企業のみならず関連する企業、業界等を調べる事が多い。例えばGREE, DeNA, mixiといった同じようなビジネスを展開している企業の比較を行うと、一企業の分析から得られる以上の事が分かると思う。
こういった、分析を行う上で色々と得られる知見が、企業価値評価を行う上での面白さの一つであると考えている。

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