2010/04/06

シェル エネルギーシナリオ 2050 (その2)

シェル エネルギーシナリオ 2050 (その1)の続きです。

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3 Blueprint (青写真)
Blueprint - overview at glance (ブループリントにおける概要)
ブループリントシナリオでは、利害による新たな連携に関するダイナミクスについて述べる。これらのダイナミクスは、統一した目的について反映させる必要はなく、供給サイドの懸念、環境に関する利害、および関連した起業チャンスの組み合わせにより形成される。ライフスタイルや経済的発展についての懸念がある世界では、先進国、発展途上国ともに行動を促すような新たな連立が形成される。この事により世界は、供給、需要および環境圧力について同時に対応出来る為の状況が出来上がり、これらの問題について迅速に対応するようになる。

これは世界的な他利主義によって行われた訳では無い。最初は、地域に根付いた個人がイニシアチブを取るようになる。これらの運動は次第に政府と結びつき、ばらばらであった各基準について調和をとれた形にするように促す力となり、また、生まれつつある政治的イニシアチブを活用できるようになる。実際、継ぎはぎ状態となっている様々な政策の現状が、ビジネス側から見ると明瞭な政策を求めるためのロビー活動を行う切掛けとなる。

その結果、マーケット主導による有効的な需要サイドの効率性についての基準はより素早く出来上がり、マーケット主導のCO2のマネージメント手法が広がる。CO2取引市場もより効率的になり、CO2価格はより早い段階で高くなる。エネルギー効率化に関する改善と、電気自動車の大衆化が加速される。大気中におけるCO2濃度の成長率は、環境に対してより継続性のある行動等により抑えられる事となる。

3.1 Starting at the grassroots (草の根運動からの始まり)
国際団体がどのような環境政策であるべきか、またどの政策が現実可能であるか議論したり、多くの国々がエネルギー安全保障について懸念を持っている間にも、行動を起こす為に新しい連携が生まれる。異なる産業に属する企業が、エネルギーに関する共通の利害の元に集まるようになる。街や地域に基づいたその他の連合では、自らの運命を自らの手で治めるようになり、自らのエネルギーの将来についてのブループリントを作るようになる。個人は、難しいエネルギー問題に対して効率的に責任を政府以外の幅広い機関に対して委任するようになる。成功に対する報酬は、キャッシュ、投票、正当性といった物となる。

そのプロセスは最初ゆっくりとしたものであり、2歩進んで1歩戻るようなものである。初期の頃は理性的というよりは政治的な日和見主義的な状態である。多くの団体は新しい政策に対する回避策、弱体化、抜け道等を探し、代替エネルギーに対するインセンティブを設けようとする。規制の見通しが不確実である事は、新たな開発に対する妨げになる場合もある。しかしながら、成功したベンチャー企業も生まれ、停滞したプロセスは、風力、太陽発電といったよりクリーンなエネルギー開発へ大きく結びつく。

消費者や投資家が、変化は痛みを伴う必要があるわけではなく、むしろ魅力的だと理解するにつれ、変化に対する恐怖は和らぎ、より大きな政治的行動も可能なようになる。エネルギーやCO2に関連した税制、インセンティブは、より早い時期に行動に移される。その結果、ブループリントシナリオにおいても、大きな変化と政治的な混乱があるものの、世界経済は強いままとなり、より少ないエネルギー消費へと重要な変化をしていく。

21世紀の初頭において、世界における先進的な都市では、効率的なインフラ開発、渋滞の対応、統合された暖房・エネルギー供給に関する優れた実践方法について共有される。幾つかの国々においては、自らの必要性とエネルギーの効率性の為に、グリーンエネルギーへ投資を行う。最初は、大気や水道の質が低下した事による抗議といった危機に対する自覚がこうした変化を引き起こす。より透明性が増した世界においては、知名度の高い地元の関係者がすぐに全国的に影響力を持つようになる。個人によるイニシアチブの成功が、市長、地方自治体に対する信任状となり、国家・国際レベルにおいてもそのトレンドを追いかけるようになる。国家および地方における努力は、お互いに協力するように、またそのことがお互いの努力を増幅するように働き、この徐々に国際的議論の性質を変えていくようになる。

人々の認識は、継続的な経済発展が環境変化に結びつくというジレンマに向かうようになる。経済向上に対する追求と平行して、大気の質や地域環境に対する懸念 - 気候変動や環境に優しい企業家精神という事ではなく- が中国、インド、インドネシアといった国々の行動を最初は推し進める。しかしながら徐々に人々は、水不足や沿岸地域の天候といった、不規則な天気の振る舞いと広い意味での気候変動との意味合いを結びつけるようになる。さらに、途上国における成功した地域では、2012年に期限が切れる京都議定書に置き換わる新たな国際条約のクリーン開発条項により開発が可能になった、新たな環境に対して配慮した設備開発に対する投資を呼び込む事で、経済を刺激する。これらの動きは先進国において、よりコストがかかる自国へのプロジェクトの代替として、途上国における排出量削減プロジェクトに対する投資を可能にする。

ブループリントシナリオにおいて、これらの事を可能にする要素は、炭酸ガス排出に関する取引枠組みに基づいたCO2に対する価格付けメカニズムの導入である。この枠組みはEUで始まっており、徐々に米国、後に中国でも導入されるようになる。この取引の仕組みは、クリーン代替手段、再生可能エネルギー、炭酸ガス捕獲、保存技術等を開発する産業周辺に活気を与える。さらに炭酸ガスに対する与信は、特に再生可能エネルギーを開発する者に対する売り上げ増に繋がり、投資に対する不確実性を減らすようになる。

3.2 Paths to alignment (連携への道筋)
国際的な枠組みへの参加者が十分なほどに増えたのは、他利主義が広がった事に支えられたわけではない。むしろ、地域的、国家レベルで始まった新たなイニシアチブが、一部は多国籍企業からの圧力もあるが、より広い変化の為の動機となる。企業は、地域、国家レベルにおける継ぎ接ぎだらけの規制の結果である非効率で不明確な状態を避ける為に、明確で調和の取れた規制について強力に議論を進める。

米国政府は一般および産業の両方からの圧力に対応し、新たな3つのイニシアチブにも基づくエネルギー効率化に向けて重要なステップを踏み出す。それは、石油販売において採掘から自動車走行に至までの炭酸ガス評価、米国平均燃料経済(the U.S. Corporate Average Fuel Economy (CAFE) standards)における基準を徐々に上げていく事 - これは自動車の最低燃費基準を定めており、これを2020年までに欧州における2007年レベルにする、燃費の悪い車に対して課税をする事でより燃費の良い車への購入を促す、という事から成り立つ。一方欧州では、すでに重要な意味を持つ燃料税を追加するのではなく、むしろ排出量の非常に大きな削減の為にCO2排出量に対してより厳しい制限をかける。

中国、インド政府は国内、経済成長を支えかつ、気候変動、エネルギー効率に関する懸念による国外からの激しい政治的圧力の間でバランスをとる事を試みる。国際的な枠組みに参加する見返りとして、両国は環境技術の移転やエネルギー効率に関する投資を促進させる為の合意を取り付ける。両国はさらに、排出量上限に関する国際的オークションから得られた収入の大部分が、割り当て量に比例して各国が受け取れる事を確約させる。その背景では、参加国はこのような同意が究極的には、中国とインドが国際市場や投資に関連してよりオープンになっていく事を通じて、全参加国にとって利益になると予想している。

このような開発により、米国、中国、インド、日本、欧州の間でCO2管理は連携が取れたものとなる。2012年より、意味を成すには十分な数の国が排出量取引の枠組みへ参加するようになり、新たなエネルギー技術へのイノベーションおよび投資が刺激され、2020年以降におけるCO2捕獲、地下への貯蔵技術への道のりが開かれる。

3.3 Developments benefit the energy poor (開発はエネルギー欠乏国にも利益)
ブループリントシナリオでは、乱立しつつも初期の開発イノベーション及び、草の根活動により証明された実践方法の適用は、低所得国にも利益となる。最初、この動きは石油市場のダイナミクスにより支えられる。OPECは石油価格を抑える為に生産を増やし、よりコストのかかる代替物の開発を遅らせる。風力、太陽発電からの送電に関する成長が加速した事による利益も生まれるようになる。新しい風力発電用タービンや、より低価格のソーラーパネルは簡単に地方に輸出されるようになり、比較的短い間に多くのアフリカ諸国における地方では、より深く、清潔な地下水を汲み上げる為のエネルギーや今後の開発に必要なエネルギーが風力、太陽エネルギーにて賄われるようになる。インドは風力発電に重視して投資を行う一方、中国では新しいソーラー発電に関するパイオニアとなる。そしてこれらの風力および、特に太陽発電に関するテクノロジーは、西側諸国に再輸出される。

各国政府はゼロエミッションカーを重要視するようになり、大量生産の為の財政的支援を行い、今までにない風力、太陽エネルギーの拡大がバッテリー、燃料電池、ハイブリッド技術等を用いた電気自動車市場を活性化させる。電気自動車市場の拡大は、これがなければ衝撃的であったであろう、石油生産の伸びの低下を衝撃無しに各国が受け止められる事を可能にした。ブループリントシナリオでは、エンドユーザが用いるよりエネルギー効率的な電気機器や、その結果による主エネルギー需要の緩やかな伸びがエネルギーの低価格化へと結びつき、これにより以前はエネルギー不足に悩んでいた国が、生活水準の上昇を加速させる事を可能とする。

3.4 Both disaggregation and integration (分解と統合)
2050年において、ブループリントシナリオにおける一つの目に付く革命的な変化は、経済成長はもはや化石燃料の使用量増加に依存しなくなるという事である。これは、世界は分子ではなく電子の世界へ移行する事を意味する。政府によるインセンティブ付けにより大量生産された事によってコストが下がった事と、消費者に対する魅力から、電気自動車は輸送セクターにおける標準へとなる。再生可能エネルギーによる発電は急速に成長し、一方で石炭、ガスによる発電は厳しい炭酸ガス排除テクノロジーを用いる事を求められる。先進国では、OECD諸国のにおける石炭、ガス発電所の90%が、非OECD諸国では50%がCCS(Carbon Capture and Storage:炭酸ガスの確保および保存)テクノロジーの備え付けるようになる。これによりCCS設備がない事と比べて、CO2排出量は全体的に15-20%削減されるようになる。新しい、ファイナンス、保険、トレード市場が生まれ、それらは新しいインフラ設備を建設する為の財務手段の助けとなる。これらの再生可能エネルギーの出現により、ヨーロッパにおける化石燃料の欠乏はもはや不利な事ではなくなる。人口縮小にもかかわらず、また厳しい効率基準を満たす為に早い時期に資本ストックが置き換えられた事により、再生可能エネルギーは経済的となる。

ブループリントシナリオでは、次なるより意味深い変化が政治レベルで起こる。すなわち、国家政策レベル、その実施を引き受けるその下位のレベル、そして国際レベルにおける相乗効果が生まれる。詳細については国々、国際的組織によって異なるものの、環境、世界経済の状態、およびエネルギー保障に関した懸念については、何が上手くいき、何が上手くいかなかったという点についての同意が形成される。これにより、全体像に基づいた行動を取る事が今までに無く可能となる。政治的分断を乗り越えて、起こりそうのないパートナーシップが生まれるようになる。世界の色々な都市が経験を共有し、より広いパートナーシップを形成する。先進都市のグループであるC-40は、その年の数を増やしつつ、都市開発における最も良い方法論を確かめ、さらには農村部においても古いテクノロジーの廃棄場になる事を恐れる事もあり、その連合に参加するようになる。

国境を越えた協力体制はイノベーションのスピードを加速させる。地方、国、国際レベルにおける規制がより統合された事により、新しいテクノロジーはより早く競争力を持つようになり、より簡単にグローバルに展開されるようになる。

ロシアや中東諸国は戦略的利益を考え、自らが使用する為および、化石燃料をより利益の出る輸出に振り向け自国内での使用を減らす為に代替エネルギーを開発する。そしてこれらの事が重要な役割を果たす。他の国々では石炭の開発が続くが、よりクリーンな石炭技術やCCSへの対応を行う。特にOECD諸国における石炭輸出国は、輸出に関連するCO2排出枠が必要となり、このことが炭酸ガス排出を管理する枠組みについての研究を促進させる。このことは、継続可能な大気濃度になるようにCO2排出量を減らす事に役立つ。

新たな企業-政府間における協力体制により促進される多国籍企業によるR&D費、より透明性が高く信頼性が置けるエネルギー統計、効率的な炭酸ガス価格決定、予測可能な規制、これらにより投資における不確実性は取り除かれる。これにより、起業家、投資家によるR&Dへの投資を活気づけ、イノベーションがさらに早くマーケットに届くようになる。

これにより経済発展は安定し、グローバル経済はより統合された世界になる。草の根からの圧力と、ブループリントシナリオを形作るより大きな透明性が、民主政府、独裁政府の両方にとってより説明責任を果たすような圧力となる役割をはたす。幾つかのケースでは、このことが秩序立った変化を促進する。しかしながら、このシナリオにおける加速したテクノロジーおよび規制の変化は追加的なストレスとなり、より硬直した社会や政府にとって変化への対応を難しくする。都市と農村部間における緊張は増し、幾つかの国、特に貧しい国では、劇的な政権交代が起きる。賢く行動をまたは投資を行わない限り、 輸出と売上が減少する事でこのような事は豊かなエネルギー輸出国においても起こりえる。これは、起きつつあるより広い分散された、政治的な混乱と相まって、グローバルに連携をとるような世界である。しかしこの混乱は、徐々にグローバルエネルギーシステムに対してのインパクは減少していく。

3.5 Blueprints for climate change response (ブループリントシナリオにおける気候変化への対応)
気候変化に関する懸念について如何に対応するかという点についての合意は、政治的リーダーが奇跡的いその行動を変えた事によって起こるのではない。これは、草の根からの価値観が、メディアや国際的な圧力団体を通して政治的な検討課題にまで達した事を反映している。またこれは、規制の明確化と一貫性を求める産業からの圧力にも支えられている。このような圧力は、国際的な枠組みによるエネルギー安全保障のマネジメントに関する懸念についての打開策を、気候変動の緩和、対応策と同時に見いだす結果となる。2012年の京都議定書の失効後、地方および都市間の枠組みから、意味のある国際的な炭酸ガス取引の仕組みが、強力な検証および認証の仕組みを持って生まれる。一貫した米国の政策は、テクノロジーへの投資をサポートし、その開発は効果的な変化に対する突破口という目に見える形で報われる。より信頼のおけるエネルギー統計と、より確かな情報に基づく市場分析は炭酸ガス取引の先物市場においてより明確かつ長期的な価格シグナルとなる。これらの枠組みにより、市場はCO2排出の割り当てが厳しくなると予想し、そしてその対策案を練る。

2055年には、米国と欧州は今日に比べて一人当たりのエネルギー使用量が33%ほど少なくなる。中国におけるエネルギー使用量もピークを越える。インドでは未だにエネルギー使用量が増えているものの、比較的発展が遅れていた事から、インドはよりエネルギー消費が少ないまま国として発展していく為の手法等を多く持つ事となる。政治的、官僚的に、エネルギー政策を調和がとれたものにする為の努力は難しいながら行われ、また大きな先行投資が必要となる。しかし、ブループリントシナリオでは、変化に必要な数の国、人々がエネルギー安全保障だけではなくて、継続可能な未来について約束するリーダーをサポートする。初期のプランが、不確実性を取り除き、そして長期的な前進への準備となった。

Concluding remarks
スクランブル、ブループリントシナリオ共に、エネルギー供給、需要、テクノロジーに関する詳細分析に基づいている。もちろん、シナリオにおけるすべてを短い概略に治める事は出来ないが、私たちはこの資料によりシェルにおける最新のエネルギーシナリオと、これから直面する選択肢とその意味合いを伝える事が出来ると信じている。

両方のシナリオともに喜ばしいものではないが、これらは我々が直面している厳しい真実から予想されたものである。両方共に、経済成長の成功とそれに伴うグローバリゼーションについて描いているが、同時に地政学的な混乱を導きかねない分岐点についても描いている。これらのシナリオでは、将来の世代に対して、良いものと混乱するもの、異なる遺産を共に作り出している。しかしながら、これらは合わせて、グローバルエネルギーシステムにおいて革命的な変化を迎える現在の可能性、限界、チャンス、混乱をも描いている。

幾人かの読者は、片方のシナリオが他方よりも好ましいと思ったり、またはもっともらしいと感じるかもしれない。これは、読者がそれぞれの持つ経験や興味からシナリオを判断する為であり驚く事ではない。実際、我々はこれらのシナリオを地球上の異なるバックグラウンドを持つ人々や専門家と共に議論し、作り上げてきた事もあり、この二つのストーリについて殆ど全ての反応の組み合わせを得ている。これにより我々は両方ともに現実的であり、かつチャレンジングであると確信している。

これらのストーリをより深く知る為に、我々は幾つかの質問事項を頭に抱きつつレビューする事を勧める。質問事項としては、「どのような節目、イベントが特に我々に影響を及ぼすのか?」「私たちの環境に影響を及ぼすにはどの要素が最も意味があるか?また、それにどう対応するか?」「次の5年、迎えつつある混乱に対応する為に私たちがするべき事は何か?」といったものである。

我々は読者と我々の考えを共有できて喜ばしい。我々は共に次の50年、TANIAを迎えるようになる。迎えつつあるチャレンジに対して理想的な解決策が無いが、我々は多くの難しい問いに対して答えを出さなければならない。明日の世界の複雑なダイナミクスをより明確に理解する事で、我々は避ける事の出来ない混乱をより明確に進む事が出来るであろう。我々はこのシナリオが読者に対して何らかの役に立つ事を望む。

Jeremy B. Bentham
Shell International B.V.

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