2010/01/10

グリー株式会社(3632)

1.はじめに
本レポートはグリー株式会社 (証券コード:3632)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2010年1月上旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2.要旨
株価 5290円(2010年1月7日終値)に対し、理論株価は2,826円となり乖離率は-47%となる。同社では2008年、2009年に掛けて業績が大幅に上昇しており、また、株価も2008年12月の上場以降、比較的堅調に伸びている。業績が伸びているが、上場直後でかつ業績が大きく伸びている段階のベンチャー企業である事、業界の先行きがやや不透明等から、やや高めな割引率(15%)を用いた結果、現状の株価は割高となった。

3.企業概要
会社名:グリー株式会社(証券コード:3632)
設立:2004年12月 設立
上場:2008年12月マザーズ上場。
事業概要:インターネットメディア事業を展開し、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の「GREE」の運営を行う。
経営陣:2009年9月提出の有価証券報告書より
創業者であり代表取締役である田中氏が発行済株式の約60%を所有するオーナー社長である。また、社内取締役である田中氏、山岸氏、藤本氏、青柳氏ともに30代前半となり、非常に若い経営陣であると言える。一方、社外取締役および監査役は社内取締役の4名よりも10歳〜20歳近く年上であり、若い経営陣をサポートする役割であるように見える。

大株主:2009年9月提出の有価証券報告書より
経営陣のところで述べた通り、創業者である田中氏が議決権の約60%近くを保有する大株主となっている。また、上場して間もない事もあると思われるが、上位10位までが持つ株式で、議決権の約90%近くを占めている事も特徴であると考える。
(注:同社は2009年9月30日に1:2の株式分割を行ったので、現時点での株数は以下の表と異なる。)

従業員数(連結):102人 (2009年6月30日時点)
2009年6月期中に従業員が28名増加しており、これは業容拡大による新規採用となっている。また、年間平均給与は約620万円となる。この平均給与を競合(DeNA,mixi)と比較すると、DeNA(約550万円)、mixi(約580万円)よりもやや高い給与水準となる。

コーポレートメッセージ:
コーポレートメッセージとして「インターネットを通じて、世界をより良く」という文言が同社のWebサイトに明記されている。

4.ビジネスモデル
SNSサービス「GREE」は、日記、コミュニティ、メール等のユーザが主体となって情報を発信出来るプラットフォームを提供している。また、これに加え、モバイル環境に特化したSNS連動型ゲーム、FLASHゲーム、占い、辞書等のコンテンツの独自開発、提供を行う。
「GREE」開設当初はPC中心の提供が中心ではあったが、2006年11月より開始したKDDIとの事業提供を通じ、現在では携帯経由でのアクセスが全体の約98%を占めている。以下の表は、KDDIとの事業提携直前の2006年11月と2009年9月におけるGREE会員数、モバイル、PCのページビューをまとめたものとなる。この表からもモバイル経由でのPVが大きく伸びている事が分かる。

同社の収益構造としては「広告メディア収入」、「有料課金収入」の二つから構成されている。それぞれの内容は以下の通り。尚、携帯キャリア(NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル)からの売上が全体の79%を占めており、モバイル各社を通じた有料課金収入が同社の収益の柱となっている事が分かる。

グリーにおけるゲームについて:
過去業績分析で示す通り、同社の売上はモバイル向けサービスが大部分を占める。この中でも、非常に大きな要素となっている部分が、ゲーム内課金、アバター販売になる。ゲームとしては自社内で内製した「釣り★スタ」「クリノッペ」「体験ドリランド」「ハコニワ」等が用意されている。基本的にこれらは無料で利用出来て、かつユーザ間のコミュニケーションが行えるようになっている。同社による課金機会としては、ゲーム内のアイテム購入、アバターのアイテム購入といった他のユーザとの差異化を行うタイミングとなる。また、これらのゲームでは定期的に「大会」「イベント」等が開かれており、ユーザ間の交流およびアイテム購入を促進する仕組みが用意されている。無料ゲームにてユーザを引きつけ飽きさせず、その後ゲーム内にてユーザに課金出来るような仕組みを作り出しかつ運営出来ている所が同社の大きな強みである。

会員数、PVの成長率について:
以下の表は、2006年1月から2009年6月までの各半年毎の「総会員数」「モバイル経由PV」「PC経由PV」の成長率をしめした表となる。これを見ると、2006/07〜2006/12におけるモバイルPV成長率が非常に大きいが、これは10月から12月に掛けてPVが7千万から2.2億に伸びている事が原因となる。その為会員数、PV共に順調に成長を始めたのは2007年以降となる。また、会員の成長率よりもモバイルPVの成長率の方が大きい事から、モバイルの利用率も高まっていると思われる。一方、PCのPV成長率はモバイルの成長率に比べると見劣りする。この事からも同社ではモバイルに注力してる事が伺える。
2007年前半以降、総会員数成長率、モバイルPV成長率が逓減しており、これが2009年前半に大規模な広告宣伝キャンペーンを行った理由であると思われる。この結果、2009年前半に再び成長率が上がっており、広告宣伝の効果が確かに現れていると見て取れる。但し、大規模な広告を行ったにも関わらず、会員数、モバイルPVの成長率は2008年前半と同じ程度となる。PC経由のPV成長率が伸びているが、母数が小さいので全体としてはあまりインパクトがない。
今後も引き続き10%を超える会員数、モバイルPV成長率を維持出来るかは、サービスの質の向上、効果的な宣伝広告といったポイントがキーとなると考えるが、過去の推移を見る限りは少々厳しい状況のように思える。

グリーとDeNA間における訴訟について:
2009年9月25日に同社は、著作権侵害で「モバゲータウン」を運営するDeNAを提訴している。これは、GREEが展開する「釣り★スタ」とDeNAが展開する「釣りゲータウン2」が酷似しているからという理由である。この件を同社のビジネスモデルから考えると、モバイルアクセスが収入の柱となっている事から、グリーが同様なサービスを提供している競合他社について非常に敏感になっている事を表していると考える。
但し、ゲームとSNSを組み合わせたモデル自体はDeNAが「モバゲータウン」として2006年2月にサービスを開始しており、2007年6月にリリースされた「釣り★スタ」を初めとするグリーのサービスモデルの方がDeNAの後追いとなる。

5.過去業績分析
過去5年間の主な指標は以下のテーブルの通りとなる。売上高、営業利益、純利益ともに2008年6月期に大きく成長している。2008年6月期に売上、利益共に大きく成長出来た理由の一つとしては、2007年5月にリリースした「釣り★スタ」、同年7月にリリースした「踊り子クリノッペ」および、2007年6月に行ったモバイル向けGREEのリニューアルと共に登場した「アバター」等によりモバイルの利用率が高まった為と思われる。これらの「釣り★スタ」、「踊り子クリノッペ」、「アバター」は無料で使用する事が出来るが、有料課金サービスを用いる事で他のユーザとの差別化を行う事が出来る。この、「ゲーム内アイテム課金」が2008年6月期より大きく売上、利益をのばせた最大の理由であると考える。
2009年6月期の販管費の増加そのものは、231%増と大幅に増えている。これは主に広告宣伝費、人件費、地代家賃等の増加である。特に、広告宣伝費については、2009年4月〜6月に掛けて大幅な広告キャンペーンを行っている。この期間に用いた宣伝広告費は11億円以上に上り、これは同期間の売上の約21%、営業利益の約42%に相当し、2009年1月〜3月期と比べても倍額以上となる。日経ビジネスオンラインの記事(http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091022/207799/?P=5)によると、これらは上場後の資金余裕があった為に広告費を用いたのではなく、広告宣伝費の費用対効果を細かく管理しながら広告を行った模様である。
また、財務的には、現時点では大きな問題となりそうな点は見当たらない。売上高の75%に相当する現預金を持っている事から、これらの資金をどのよう効率的に用いるかが今後の課題となる。

(注:営業利益については、FCF算出用に科目を一部再構成しているため、有価証券報告書の値とは異なる。また、同社は2008年12月に上場している事と、2009年10月に株式分割をしている為、2009年6月期の一株あたり純資産、純利益は単純に前期との比較は出来ない。)

同社の販売先は以下の通りとなる。2009年6月期において携帯キャリア3社からの売上が大きく伸びており、売上高のの79%を占める。また、モバイルからのアクセスが「GREE」のPVの98%を占めている事から、モバイル向けサービスの展開が同期における成長の源泉となって来た事が分かる。
また、アフェリエイト広告事業を行っている株式会社アドウィエイズからの売上を含めると、全体の90%近くをこの4社から売り上げている。

資本効率について
過去5年のROICは以下の表の通りとなる。また、同社は現預金の保有額が非常に大きい事から、資産ベースのROICの計算にあたり現預金の一部を投下資本に計算している。2008年6月期に売上、利益が大きく改善した事により、ROICが大幅に改善している。2008年12月の上場による資本増加の割合に比べて、営業利益率の伸びが低かった事から、ROICは低減している。但し、その点を考慮しても非常に高いROICであると言える。

ROICツリー分析
グリーの資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、ミクシィ、DeNAを選択した。この中ではグリーが最も高いROICとなっている。これは他社と比べて売上原価率、販管費率共に優れた結果となっている。これは、グリーではゲームの制作を内製で行っている事が一つの理由であると考える。
投下資本回転率は3社共に大きな違いはない。ただ、3社に共通する点としては非常にキャッシュリッチな状況にあり、売上の60%〜90%にあたる現金額を保有している。3社共にこれらの現金をどのように活用して行くかは、今後の大きな課題である。


7.将来動向 (シナリオの前提)
■外部環境
・インターネット普及率
総務省による平成20年「通信利用動向調査」によるとインターネットの利用者数は9,091万人となり、人口普及率は75.3%となる。また、年齢別に見ると13〜39歳までは利用率が95%を超えており、この年齢層がグリーのユーザーの大部分を占めていると考えられる事から、インターネットそのものの普及率は頭打ちになると想定する。

・携帯普及率
同調査によると、携帯の個人利用率は全体で75.4%、世代別の利用率としては、20代〜40代で90%を超えている。携帯についてもグリーがターゲットとするユーザにはほぼ携帯が普及しているといえる。

・インターネット広告費
電通総研によると、2008年インターネット広告費は6,983億円、うちモバイル広告費は913億円となっている。インターネット広告費自体は伸び悩んでいるが、モバイル広告は前年比147%となった。この事から、広告費としては景気後退の影響を受けるものの、モバイル向け広告費市場は今後もゆるやかに成長するものと仮定する。

■内部環境
・資本コスト
株式コスト:上場直後の企業という事もあり、自分勝手割引率としてやや高めの15%を用いる。
有利子負債コスト:有利子負債は保有していない。
WACC:株主コスト=WACCとなり、WACCは15%となる。

・売上高
2010年6月期の売上予想は会社発表に合わせる形とした。代表取締役の田中氏によると、将来的にグリーの利用者を2,000−3,000万人を目指すとの発言がある。直近の2010年6月期第一四半期決算によると、2009年9月時点の利用者は1,512万人となり3ヶ月で252万人増えた。よって、多少楽観的ではあるが3〜4年以内に2,500万人に程度には達すると仮定した。その後、加入者の伸びは逓減していくと想定する。売上についても、IRへの質問を元に、有料課金、広告収入共にあまり不況の影響を受けずに加入者の伸びに応じて伸びて行くと想定した。

・営業費用(売上原価・販管費)
売上原価の約85%が労務費と賃借料となっている。これらは加入者増、サービス拡充に伴って増えて行く事が予想され、対売上比で徐々に悪化して行くと想定。
販管費については、今後、ユーザ増加に伴う経費、広告宣伝費等が予想される事から、対売上比40%程度の経費がかかると想定する。

・減価償却費
ソフトウエアおよびサーバが資産となるので耐用年数は5年とする。

・設備投資
2012年頃までは会員数の増加とともに積極的に設備投資を行うが、会員数増加率が逓減していくとともに、設備投資額も減少して行くと想定。M&A等については想定に入れていない。但し、売上、利益等に比べて設備投資額が非常に小さい事から、設備投資額がバリュエーションに与える影響は小規模となる。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
現預金を除き、非事業用資産は保持していない。

・実効税率
過去5期における実効税率の平均が46.4%だった事もあり、この値を用いる。

8.バリュエーション 
2010年1月7日の終値5,290円
上記各シナリオを数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:2,826円 乖離-47%

9.IR関連
同社のIRサイトには、決算短信、新規公開目論見書、有価証券報告書がダウンロード出来るようになっており、基本的な情報はここから取得出来るようになっている。また、同社のIR部門に対して、設備投資、従業員数、今後の見通しなどについて伺った所、一通りの回答を頂く事が出来た。いくつか質問の回答に時間がかかった点もあったが、誠実に答えて頂いたと思う。
主なQAとしては以下の通り。
Q.ユーザ層として30代以上が比較的多いが、実際に課金が発生しているユーザの層は?
A.ユーザ層とそれほど変わらず、30〜40代のユーザが多い。

Q.ユーザ一人当たりの単価は伸びているか?
A.ユーザの伸びに応じてユーザ間のコミュニケーションも増えている事から、比較的堅調に単価も伸びている。

Q.携帯キャリアからの売上が80%、広告収入が20%となっているが、今後のこの割合の見通しは?
A.直近において大きく変化する見通しは無い。また、ユーザ数に応じて、有料課金収入、広告収入共に伸びている。その為、不況の影響をもろに受けているという事は無い。

Q.今後の設備投資の見通しは?
A.特段大きな設備投資は予定していない。事業拡大に応じて人員は見合った規模にする予定はある。その際、競合他社が200〜300人規模なので、それは一つの目安となる。

Q.100億円あるキャッシュの使い道は?
A.現在検討中。

Q.社内からみた、競合他社と比較した自社の強みはどう理解しているか?
A.1、内製にてゲーム&SNSを組み合わせて運営する事が出来る体制を持っている事。2、他社と比較して可処分所得が高い30代以上のユーザ層が比較的厚い事。

10.まとめ
株価 5,290円(2010年1月7日終値)に対し、理論株価は2,826円となり乖離率は−47%となる。同社では2008年6月期以降、急速に伸びており今後もしばらくは業績が伸びて行く事が予想されるが、それを考慮に入れても現時点では割高な結果となった。また、理論株価と株価が一致するように株主コストをゴールシークすると、株主コストは9.7%となる。同社は上場後間もないため、Web上からベータを取得する事は出来なかったが、おそらくCAPMで計算した場合の株主コストは9%前後になると思われ、その意味では現状の株価はおよそフェアバリューとも言える。但し、ベンチャー企業であり上場後間もない企業である事、SNS業界における個人認証に関わる規制等の問題を含めて今後の先行きが見通しにくい業界である事から、現実の株式コストは10%よりも高いと想定する。
また、同社は2008年12月の公募増資により約36億円に及ぶ財務キャッシュフローを取得しているが、2009年6月期のフリーキャッシュフローは約56億円となり、公募増資の約1.5倍ほどのキャッシュを稼いでいる。結果的に2009年6月期に業績が大幅に上昇しているからという結果論ではあるが、キャッシュフローだけでみると、公募増資を行わなくても同社が必要な投資キャッシュフローは十分に稼げている。そこで、今後、如何にして株主資本を有効に活用して行くか?という事が同社にとって大きな課題になるであろう。
自分勝手割引率を用いた場合、同社の株価は割高であるが、ビジネス自体は優れているといえる。特に、サイト自身のオープンはミクシィとほぼ同時(2004年2月)にも関わらず、一端ミクシィやDeNA(モバゲータウン)に会員数、サービス内容に大きな遅れをとっていた。その後、2007年後半以降にかけてモバイル向けサービスに特化する事で急速に業績を改善、拡大してきた同社の経営力は非常に高く評価出来る。その事から財務的な同社の価値は、モバイル経由によるユーザ課金、広告収入ではあるが、本質的な価値は代表取締役の田中氏を初めとする同社の経営陣および、各種サービスを企画、実装、運用するスタッフの実行力にあると考える。

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