2009/07/21

株式会社ウェザーニューズ(4825)

1. はじめに
本レポートは株式会社ウェザーニューズ(証券コード:4825)について、投資家としての立場から同企業の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年7月上旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポートなどの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2. 要旨
株価1562円 (2009年7月21日終値)に対し、理論株価は2232円となり乖離率は43%となる。同社は気象情報会社としては最大手であり、海事気象、交通気象、個人向けコンテンツ作成等、気象情報に関する様々なビジネスを行っている。株価的には2008年以降上昇傾向にあるものの、現時点の株価と将来業績予測を考慮するとまだ投資余地があるのではないかと考える。

3. 企業概要
会社名:ウェザーニューズ株式会社 (証券コード:4825)
設立:1986年6月
上場:2000年12月ナスダックジャパン上場、2002年12月東証二部に上場、2003年11月東証一部に指定替え
事業概要:自然現象のデータを独自に集積・予測し顧客向けにコンテンツを加工した上で企業・個人等に提供する事業を営む。
経営陣:2008年提出の有価証券報告書より
創業者である石橋博良氏が議決権の23.73%を所有する筆頭株主であると同時に代表取締役会長を務めている。この事から同社において、石橋氏の影響力が非常に大きいことが伺える。各取締役の職名から判断するに、各事業・部門における責任者を取締役に登用しているように思える。また、創業者の石橋博良氏が62才、取締役では最年長である磯野氏が77才である事に対し、石橋知博が34才、アントニオ・ブリッツォが40才と取締役内において年齢の幅がある事も伺える。

大株主:2009年4月13日年提出の第三四半期報告書より
上位2者である石橋博良氏と株式会社ダブリュー・エヌ・アイ・インスティテュートを合わせると議決権の39.05%を保有している。ウェザーニューズ社の新株発行目論見書によると、2000年の時点では株式会社ダブリュー・エヌ・アイ・インスティテュートの代表取締役は石橋博良氏となっている。この事から、株式会社ダブリュー・エヌ・アイ・インスティテュートについては実質的に石橋博良の支配下会社と考える。また、2008年の有価証券報告書提出時に比べて、2009年4月の第三四半期報告書の時点では上位10大株主がもつ株式の割合が63.68%から67.32%に上昇している。

従業員数(連結): 589人 (2009年2月28日時点)
連結、単体共に従業員数自体はここ5年減少傾向にある。その一方、連結、単体共に売上げ自体は増加もしくは微増傾向にある。以上のことから同社では非効率なビジネスを見直し、効率的なビジネスに集中した結果の従業員数の推移ではないかと考える。
また、単体における従業員数は減少傾向にあるものの、平均勤続年数は増加傾向にある。このことから、同社における社員の定着率は良いのではないかという事が伺える。

・経営理念
「Always WITH you!」というキャッチフレーズと共に、以下の10項目が経営理念として同社のWebサイトに掲示されている。
・サポーター価値創造
・社会に貢献する全球郷土人
・情報民主主義
・サポーターとの共感・共創
・感謝のリサイクル方程式
・Most Preferred Maker
・バランスのとれた成長安定で企業価値を最大化
・マンとマシンの共有的分業
・高貢献・高収益・高分配
・自己達成・自己実現・他者実現社員

4. ビジネスモデル
同社による認識では気象市場は6,000億円以上の市場規模があり、今後も先進国のみならず、アジア、南米などにおいて潜在的な市場は成長するとの記述が2007年の有価証券報告書以降ある。尚、同社のIRによると6000億円の数字は、先進国の気象庁における予算を合算した数字から算出している模様である。
この市場規模の認識の元、同社では官製の気象サービスに依存することなく気象コンテンツを提供する「フルサービス・ウェザーカンパニー」になることを目標として挙げている。同社のビジネスモデルとしては、大分すると以下の二つになる。

同社では、サービスを利用する企業、個人との間で構築された独自ネットワークと世界各国の官営気象データを元に、全世界の気象データベースを保持&更新を行う。BtoB(企業向け)市場においては、各事業に必要なデータを企業と共に収集・共有して各企業に合わせたサービスに利用する。また、その際、独自の気象予測、顧客の気象リスクを元に、顧客がどのような対応を取ればよいかという「最適化された対応策」を提示する事まで行う。一方、BtoS(個人向け:Sはサポーターの意味)では、個人のニーズに合わせた防災・減災、桜開花、等の生活者向けコンテンツをモバイル、インターネット、ブロードキャスト等の各メディアを通じて個人に発信を行う。提供している気象サービスとしては、BtoB、BtoSを合わせて、全部で33種類に及ぶ。代表的なサービスとしては、航海気象、石油気象、海上気象、道路気象、鉄道気象、モバイル、インターネットなどが挙げられる。

・バリュードライバー
官製及び世界各国から集めた気象データに加え、独自に集めた気象データを元に、各サービス及び顧客に必要なコンテンツに加工した上で、顧客の意志決定に役立てるデータを提供する。この気象情報に関する一貫したサービスを展開出来る所が同社の強みであると考える。

・中期ビジョン
同社では、中期ビジョン(2008年6月-2011年5月)として、以下の5項目を挙げている。
1. BtoB市場 - 重点市場(海事気象、交通気象)のやりぬき
2. BtoS市場 - 分衆市場の立ち上げ
3. 革新的なサービス及びサービスを実現する技術、インフラへの取り組み
北極海航路に向けた取り組み、超小型ドップラーレーダーの構築等、BtoB市場、BtoS市場共に従来にいないサービスを実現する為の技術、インフラ構築へ取り組む
4. エリア展開
2009年5月期は欧州、2010年5月期は北米、南米アメリカ、2011年5月期は日本を重点エリアと位置づけ販売体制の強化を行う。
5. 中期経営目標
 (ア) 売上目標
  ① BtoB市場は10%以上成長
  ② BtoS市場は20%以上成長
 (イ) 営業利益率
  20%
 (ウ) 配当
  業績に応じた配当

・競合企業の分析
気象情報という性格上、競合企業としては官民の両方があげられる。現在、予報業務の許可を持つ事業者一覧としては、気象庁のサイトに一覧があり(http://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/minkan.html)広義ではこれらの企業が競合にあたると言える。上述のリストによると、一般向けの天気予報関連コンテンツを作成しているサイト(お天気.com、e-天気.net)や、海洋気象情報に特化している会社((株)サーフレジェンド)が見受けられる。現時点において、気象予報を主業務とした上場企業はウェザーニューズ社のみとなり、同規模で気象予報業務を行っている会社はなさそうに見えるが、個々のビジネスにおいては競合する企業があるといえる。

5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下の通りとなる。
2008年5月期より売上高に比べて営業利益が急激に伸びている事が分かる。これは原価率及び販管費率が2007年までと比べて低下している事が原因となる。2008年の有価証券報告書によると、これは2004年より進めてきた海外販売拠点の見直し等の事業運営の整理・整頓が効果を発揮した為とされている。

市場別・所在地別セグメント別売上げについて
同社のビジネスは主に気象情報に関するコンテンツ販売となり、事業別のセグメント情報は無いものの、販売市場及び、所在地別のセグメントは以下の通りとなる。

BtoB市場(法人向け市場)については、過去5年を通じて堅調に伸びていると言える。2009年5月期の決算短信によると重点事業である海事気象情報(航海、石油、海上)及び、交通気象(道路、鉄道、航空)共に順調に売上げを伸ばしているとの言及がある。一方、BtoS市場(個人向け市場)については、インターネット・モバイルを利用したコンテンツ販売が伸びているものの、CS放送の中止、注文受注サービスを意図的に減少させてきた事により、BtoS市場における売上げ自体はやや減少及び横ばい傾向となっている。
2007年より、「放送・報道気象コンテンツサービス」の区分をBtoBからBtoSに変更している

所在地別の売上げ及び利益については、過去5年ほど日本からの売上げが70%後半とほぼ安定している。また、北米からの売上げが減少傾向であり、欧州の売上げはほぼ横ばい、アジア・豪州からの売上げはやや増加傾向となっている。北米からの売上げについては、事業の見直し、整理等の結果、重点事業に集中した結果と考える。欧州については、売上げが減少しているにも関わらず、営業損失も大幅に減少している。これは過去数年行ってきた運営組織、販売組織の見直しが効果を出し始めた可能性がある。アジア・豪州については、航海気象を中心に売上げが伸びている模様。但し、売上げ、利益共に単純に右肩上がりで伸びている状況ではない。
資本効率について
負債側、資産側共に過去3年で大きく上昇している。これは、資産の増加に対して営業利益の伸び率が大きい為となる。これは、収益性のトールゲート型ビジネスの売上げが増加したことにより、より効率的に利益が上げられるようになってきた為と考える。

6. 資本政策の分析
・配当
同社の売上げの基礎となるトールゲート型サービスは、売上げと共に利益が成長するモデルであるという事の元、2007年5月期より配当については売上と連動する形を取っている。
この事から、同社においてはトールゲート型サービスの売上げ動向を重視しており、この売上げの将来が今後の同社の方針に大きな影響を与えると考える。

・自社株買い
2009年5月期末において、730,200株(発行済み株式の約6%)の自己株を保有している。自社株買いについては2006年2月16日に900,000株(約682百万円)取得しているが、それ以降自社株買いを行った形跡はなく、ここ数年にわたっては徐々に自社株を売却している。

・資金調達方針
資金調達においては、財務安定性及び資本コストの適正性を勘案して行う。基本的に多額の設備投資以外の資金需要は営業キャッシュフローを原資とし、必要に応じて金融機関から短期的な借り入れを行う。設備投資・投融資金については金融機関からの長期借り入れ及び、社債、増資等から調達するとされる。

7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:自分勝手割引率として10%を使用。
有利子負債コスト:
現時点(2009年7月上旬) においてはまだ2009年5月期の有価証券報告書は提出されておらず、最新の情報は決算短信となる。決算短信には社債及び借り入れの明細情報が無い為、有利子負債コストは決算短信から支払利息と有利子負債を用いて概算する。
支払利息:51,249千円、有利子負債:2,801,833千円から有利子負債コストは1.8%と仮定する。尚、2008年5月期有価証券報告書より、この時期の有利子負債コストは1.48%だったことから、やや有利子負債コストが上昇していると見て取れる。
WACC:
時価ベースでみた株式コストと、有利子負債コストの加重平均をとった結果、WACCは8.83%となる。

・売上高
2009年6月29日発表の決算短信によると、2010年5月期の売上げ予想は前年比6.7%増の122億円となり、営業利益は22.3%増の26億円を見込んでいる。そこで、2010年の予測としてはこの値を用いた。また、その後の予測シナリオについては以下の通り。

BtoB市場:過去3年のCAGRにおける成長率は7.33%となっている。BtoB市場はまだ成長が見込まれるものの、現時点では今後の展開がやや不確かなこともあり、2015年まで4.5%成長すると仮定。その後は、ゆるやかに減少していくとする。

BtoS市場:BtoS市場については、モバイル・インターネット関連の売上が成長していくと予想するものの、受注型注文サービスの売上が今後も減少していくと考えられることから、トータルでは5%弱程度の成長と仮定する。

・営業費用(売上原価・販管費)
同社予測に基づいて、売上122億で営業利益26億を達成する為には、売上原価率はおよそ50.3%程度である必要がある。そこで2010年の予測としてはこの値を用いた。これは2009年の売上原価率51.8%とほぼ同様の値となる。これは同社においてトールゲート型ビジネスが成長することにより、利益率が上昇している事を予測していると考える。今後もトールゲート型ビジネスが収益の柱となる事が予測されるので、売上原価率はほぼ同じ値で今後も続くと仮定する。

連結決算における販管費の固定費、変動費につての詳細は公表されていない為、単体決算における販管費の詳細を調べたところ、変動費割合は約10.9%だったので、この値を用いる。

・減価償却費
減価償却は過去の水準を考慮して、2011年までは平均償却年数を5.5年として計算した。また、以下で述べるように2010年以降に大きな設備投資を計画している事から、その後についてはやや減価償却が伸びると仮定。また、最終年度(2019/5)については、設備投資額と同額になるように調整。

・設備投資
2008年の有価証券報告書によると、重要な設備の新設という事で、インフラ用設備向けコンピュータ、ネットワークとして、約5億5千万円が計上されている。また、同社のIRから伺った所によると、2010年,2011年の設備投資額としては10億程度を計画している模様。そのため、バリュエーションにおいてもその値を用いる。その後については、現時点では未定ではあるが、ある一定規模の設備投資を継続して行う意志が感じられたことから、7億程度で推移すると仮定した。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
非事業用資産は保持していない。

・その他
その他特記事項は特になし。

8. バリュエーション 

2009年7月21日の株価1,562円
売上高等の各種予想を数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:2,232円 乖離43%

9. IR関連
IRによると、投資の意志決定に際し、資本コスト及びハードルレートについては特に定めていないという回答を頂いた。また、ここの所、自己資本比率が上昇しているが、長期的な目標水準についても、現時点では特に定めていない。これは2005,2006年に純利益において赤字を計上したが、その後業績が回復しており、現状は次のステップに向けた過渡期であるという認識の為とのこと。
また、将来業績、及び今後の設備投資の予定等についてIRの担当者の方から伺ったところ、非常に誠実な回答を頂く事が出来た。また、同社の現状認識及び、今後の成長についても強い意欲を持っている様に感じた。

10. まとめ
株価1562円 (2009年7月21日終値)に対し、理論株価は2232円となり乖離率は43%となる。チャート上では2004年から2007年年末にかけて株価が下落傾向であったものの、2008年以降から急激に株価が上昇している事が見て取れる。この事から株価上では金融危機に対する影響はあまり見て取れない。
同社の強みは、気象予報に関して官営サービスだけに頼らない独自ネットワーク/数値予報モデルを使って作り上げたコンテンツを提供出来る所にあると考える。また、単に情報提供だけに留まらず、顧客に対して気象予報を元にしたコンサルティングを行える点において、他社との差別化が出来るポイントであろう。この差別化が維持できれば、今後もトールゲート型サービスの増益が期待できるのではないかと考える。

財務面に置いては、ここ数年、流動比率、自己資本比率共に値が上昇している。また、次の成長ステージに向かう為、2009,2010年にそれぞれ10億円程度という例年に比べると大きい投資計画を持っている。これはIRの所でも記述したが、2005,2006年に計上した赤字以降、業務等の見直しを行った結果、その成果が現れており、次のステップへ向けて成長を加速する体制に入ったという事が言えると考える。

一般的に、同社のBtoBビジネスは、顧客企業に対する売上向上を支援すると言うよりは、利益(原価低減)に対して貢献するビジネスであると考える。海事気象においては、経済減速と共に船舶活動自体も減速した事により売上げに影響が出ているものの、不況により顧客がコスト管理に敏感になっている可能性がある事から、同社のビジネスはダイレクトには不況の影響を受けないであろうと予想する。BtoSのサービスは、主に個人向けサービスとなり、売上を拡大するには新たなマーケット自体の創造及び拡大が必要になると考える。今回のバリュエーションにおいては、やや保守的な見通しではあるが、マーケットの創出に成功した場合、BtoBよりも大きな売上の成長が期待できる分野であると考える。

気象情報の提供というビジネスは、実際に顧客に対して価値を提供していているビジネスであり、今後も価値を持ち続けるビジネスであると考える。その中で最大手の同社は今後も一定の成長をしていくものと予想する。以上の事から2008年以降、株価が上昇しているものの、中長期的に見てまだ投資余地がある会社であると考える。

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