2009/07/13

株式会社ドクターシーラボ(4924)

1. はじめに
本レポートは株式会社ドクターシーラボ(証券コード:4924)について、投資家としての立場から同社の企業価値評価をまとめたレポートとなる。分析に用いた各種数値については、分析時点(2009年7月上旬)における数値となっている。また、本レポートで用いている情報ソースは、同社のIRサイト、EDINET等から取得した有価証券報告書、各種決算短信レポート、同社IRへの質問からの回答などの一般からアクセス可能な情報のみからとなる。

2. 要旨

2009年7月10日の株価158,200円に対して、理論株価は169,824円となり乖離率は7%となった。同社の事業は、メディカルコスメという皮膚科の医師が関わった化粧品販売を行っており、高い利益率をあげている。
化粧品事業は、ブランドの認知が非常に重要であると考えるが、同社のメディカルコスメという領域は今までに無かった事もあり、今後も成長が見込まれると考える。

3. 企業概要
会社名:株式会社ドクターシーラボ(証券コード:4924)
設立:1999年2月
上場:2003年3月JASDAQ、 2005年2月東証一部
事業概要:人の肌が持つ自然治癒力に着目した化粧品や、健康食品、美容機器等を販売する事業及び投資業務。
経営陣:2008年10月提出の有価証券報告書より
上場以前の2002年4月より石原氏が同社の代表取締役社長を務めている。創業者の城野 親德氏は設立時より取締役会長を務めるものの(2002年9月から2003年4月まで取締役でありつつも、会長職からは離れる)、略歴を見る限り同社の代表取締役を勤めた形跡は無い。また、現在の取締役は全員上場以前から同社の取締役もしくは従業員として勤務している。上場時点では取締役として8名が登録されていたがその後、取締役は4人に減った時期もあったが、現在は5名が登録されている。


大株主:2009年3月16日年提出の第二四半期報告書より
創業者の城野 親德氏、及び氏の配偶者の城野 智子及び、城野 智子が代表取締役を務める有限会社 城貴を合わせると、議決権の45.83%を所有している事となる。また、代表取締役の石原 智美氏も第三位の大株主である事から、経営陣と株主の両面において城野 親德氏と石原 智美氏の影響が大きいことが伺える。
尚、JASDAQ上場時の目論見書によると、上場時点において、当時の従業員137人の内、79人が少数ながらストックオプションを保有していた。

従業員数(連結): 587人 (2009年4月31日時点)
連結、単体共に過去5期を通して売上げと共に従業員数も増加傾向にある。また、平均勤続年数についても増加傾向ではあるが、設立10年という事を考えると、やや短いとも思える。2008年の有価証券報告書によると、168名が本社(統括業務、販売業務)における勤務であり、309名が対面店舗型(販売業務)における勤務となり、これらの二カ所が従業員の大部分を占める。また、対面型店舗において販売業務を行う従業員が、連結における従業員数の大部分(約55%)を占めている。

・経営理念
「肌トラブルに悩むすべての人々を救う」を経営理念に、皮膚の専門家の視点で企画開発されたスキンケア化粧品を中心に、美容と健康をサポートする価値ある商品の提供により、社会貢献を目指す。

4. ビジネスモデル
富士経済におけるスキンケア市場調査(https://www.fuji-keizai.co.jp/market/09035.html)によると、2008年は9932億円、2009年は9903億円の市場規模が見込まれている。その中で、同社では皮膚科の専門家の視点(創業者の城野 親德氏は美容皮膚科医師)から、人が本来備えている「自然治癒力」に着目したスキンケア商品(メディカルコスメ(注))の企画開発及び販売を行いっている。

同社では、以下の4ブランドを展開しており、それぞれの価格帯及びターゲット顧客層は以下の通りとなる。尚、ドクターブラントについては、ニューヨーク発コスメブランドであり、同社が日本における独占販売権を獲得している。

注:メディカルコスメは同社の登録商標。「国内および海外の皮膚科医・皮膚科学に携わる専門医自身、もしくはその協力者により開発された製品」と一般的に定義され、同義として「ドクターズコスメ」と紹介される場合もある。但し、同社では医療現場で治療と治療の間等にも使用されているコスメという所まで意識している模様。
以上の事から、同社はスキンケアという焦点を絞った市場において他社との差別化を行い、利益をあげる事を目指す戦略をとっていると言える。

・バリュードライバー
メディカルコスメという皮膚科の医者が開発に携わっているというブランド及び品質の元、比較的価格帯の高い化粧品の製造・開発・販売を行う事により、高収益のビジネスを展開する所になる。また、過去業績分析で述べるように、同社は広告宣伝費、販売促進費に多額の費用を費やしている。そこで、如何にしてブランドを顧客に認知、浸透させるかどうかが鍵になると考える。


・競合企業の分析
競合企業としては、以下のROICツリーで用いた資生堂、ファンケル以外にも化粧品の開発・販売を行う会社は国内外に数多くあり、企業間におけるブランド認知、差別化等に対する競争は激しい業界と考える。また、単純に化粧品のみならず、エステティックサロン及び美容関連のビタミン剤等についても広義の意味で競合となると考える。

5. 過去業績分析
過去五年間の主な指標は以下の通りとなる。尚、同社は2007年より決算期を1月~7月に変更した為、2007年7月期は6ヶ月間での結果となる。
過去5期の推移を見ると、売上高、営業利益、純利益共に増加傾向にある事が分かる。しかしながら、成長率の観点から見ると、売上高の成長率に比べて営業利益の成長率の方が小さくなっている。原価率、販管費率を調べて見ると、原価率はほぼ横ばいに対して、販管費率がやや増加傾向にある事が分かる。事業の拡大と共に、従業員数等も増えている為、その結果、販管費率が上昇したものと考える。

売上に対して、原価率が低く(18%~19%)と、販管費率が高い(65%前後)事も同社の一つの特徴と言える。2008年7月期の販管費13,857百万円のうち、主な費用は広告宣伝費に約24%、販売促進費に約12%、給与手当に11%となり、これらで販管費の約50%を占める。その為、連結の売上原価は約39億円になるが、広告宣伝費の約34億円、販売促進費の約17億円を合わせると、約51億円となり、広告宣伝費+販売促進費>売上原価という事になる。この事から、ブランド名の認知及びブランドの確立を同社が重視しているかという事が伺える

事業別、販売経路別売上について
事業別販売実績を見ると、過去5期を通して約95%の売上げを化粧品事業から挙げている事が分かる。特に機械類その他事業については、化粧品を補完する商品の販売を行っている事もあり、積極的な販促活動は行っていない模様である。

販売経路別販売実績を見ると、卸売販売及び対面型店舗販売による売上の成長が通信販売よりも高い。その為、2005年5月期では約56%の売上が通信販売経由だったが、2008年7月期においては約48%の売上が通信販売経由となっており、卸売販売が約28%、対面型店舗販売が23%を占めている。

尚、2009年7月期における中間事業報告書によると、通信販売は第一四半期に行った広告宣伝、販売促進活動等が功を奏し、売上を伸ばしている模様。これは、今期においても国内通販登録会員数が順調に増加している事からも、売上が順調に伸びている事が伺える。また、通信販売購入者の推移によると、約7~8割の購入者がリピーターである。この事から、実際に商品を購入した人の満足度は高いという事が伺える。

一方、卸売販売や対面型店舗販売においては、景気減速及び個人消費減退の流れを受けて厳しい結果となっている模様。特に、対面型店舗販売においては、第二四半期累計で前年同期比92.5%と厳しい状態になっている。これは、対面型店舗販売においては、ドクターシーラボ、ジェノマーの2ブランドが厳しい状態にあるものの、最も高価格帯のブランドであるドクターブラントについては、新規出店効果もあり売上を伸ばしている。

資本効率について
過去5期を通して、負債ベース、資産ベース共に比較的高いROICをキープしている事が見て取れる。この事から、同社では資産を効率よく回転させて営業利益を稼ぎ出していると考える。

ROICツリー分析
ドクターシーラボ社の資本効率を同業他社と比較する為にROICツリー分析を行った。比較対象としては、化粧品業界として国内では時価総額が最も大きいと思われる資生堂と、時価総額がドクターシーラボ社と比べて倍弱ではあるが、同社と同じように独自のブランドを持っているファンケルを選択した。
ROICツリーによると、ドクターシーラボ社のROICが他の2社と比較して高い事が分かる。この差は主に売上原価率と固定資産回転率が他社と比較して優れている事による。


6. 資本政策の分析
・配当
同社の過去の配当性向は、以下に示す表のように、年々配当性向が上昇している。これは会社の発展段階を考慮しつつ配当性向を決めていると考える事も出来る。但し、配当により最も利益を得るのは、創業者である城野氏及び、氏の関連する有限会社 城貴である事は留意すべき点であると考える。
*:アクアコラーゲンシリーズの販売が1000万個を超えた事による記念配当1000円を含む。

・自社株買い
2009年4月31日現在において、7198株(発行済み株式の2.6%)の自己株式を所有している。取得時期としては、2008年7月期に4000株、2005年1月期に3198株取得している。


7. 将来動向 (シナリオの前提)
・資本コスト
株式コスト:自分勝手割引率として12.5%を使用。成長期のビジネスである事から、やや高めの割引率を用いる。
有利子負債コスト:長期借入金(1年以内に返済予定)の平均利率1.26%。社債は無い。
WACC:時価ベースでみた株式コストと、有利子負債コストの加重平均をとった結果、WACCは9.97%となる。

・売上高
通信販売:過去6期の通販登録会員者数の増加傾向及び、2009年7月期第二四半期における会員数も順調に増加している事もあり、今後もしばらくは通販登録会員者数が順調に増加していくと仮定。それにより、通信販売による売上も今後3,4年は20%前後の増加を見込む。その後は、緩やかに成長率は減少すると仮定。

卸売販売:化粧品専門店における販売及び、テレビショッピング(QVC)における通販が順調であることもあり、2009年7月期は約9%弱の成長を見込む。今後5年程度、10%前後の成長を見込み、その後はやや成長率が鈍化すると仮定。

対面型店舗販売:2009年第二四半期における対面型店舗販売の業績を見ると、不況の影響をまともに受けて、マイナス成長となっている事から、この販売経路は、景気に対して敏感であると思われる。そこで、対面型店舗販売については、2011年頃までややマイナス成長となり、その後再び成長過程にのるが、やや緩やかに成長していくと仮定。

海外:対面型店舗販売と同様に、海外セクターについても不況の影響をまともに受けているように見える。その為、海外セクターについても2011年頃までややマイナス成長となり、その後、緩やかに成長していくと仮定。

・営業費用(売上原価・販管費)
2009年3月18日における第二四半期決算説明会の資料によると、2009年7月期の売上原価率は18.4%を見込んでいる。これは、前年(18.2%)とほぼ同じである。過去5期を通しても原価率は18%~19%とほぼ安定しているので、今後もこの程度の原価率であると仮定する。

連結決算における販管費の固定費、変動費につての詳細は公表されていない為、単体決算における販管費の詳細を調べたところ、変動費割合は約79.3%だったので変動比率を80%と仮定する。この値を用いる。尚、変動費の中でインパクトが大きい値は、広告宣伝費、販売促進費、荷造運搬費、支払手数料となる。
尚、成長期のビジネスである事などから、固定費成長率は最初の5年は比較的高めの7%とし、後に5%となるように仮定した。

・減価償却費
減価償却は過去の水準を考慮して、平均償却年数を4年(売上高の2.2%~2.3%)として計算した。また、最終年度(2018/7)については、設備投資額と同額になるように調整。

・設備投資
同社は設備投資ビジネスではないものの、今後も売上の成長が見込める事もあり、設備投資額は売上高と連動するように仮定した。その結果、売上の3%程度を常に設備投資に廻すと仮定。

・長期成長率
長期成長率は0.5%を仮定する。

・非事業用資産
非事業用資産は保持していない。

・その他
その他特記事項は特になし。

8. バリュエーション 
2009年7月13日の株価158,200円
売上高等の各種予想を数値に落とし込んだ結果、理論株価は以下のようになった。
理論株価:169,824円 乖離率7%

9. IR関連
同社のIRに対して、資本コスト、資本政策及び将来動向に関する質問を行ったところ、翌営業日に回答を頂いた。回答のレスポンスは非常に良い。資本政策について伺ったところ、投資決定の際の資本コスト、ハードルレートの設定については特に行っていない。また、自社株買いについては、時期は未定ながら、今後も行っていく予定がある模様。
同社は中期経営計画をWebサイトにて公表しており、現在は2008年7月期から2010年7月期までの計画となっている。全社における売上、利益等の目標の他に各販売チャネル毎の売上目標、各ブランド展開戦略につての説明がある。

10. まとめ
株価158,200(2009年7月13日終値)に対し、理論株価は169,824円となり乖離率は7%となる。ドクターシーラボ社は設立10年の比較的若く、また成長中の会社である事から株式コストを12.5%とやや高めに設定したのにも関わらず、フェアバリューよりもやや高い理論株価となった。過去の株価推移を見ると、昨今の金融危機の影響をまともに受けている様なチャートには見えないものの、全体のトレンドとしてはやや株価が下落傾向である事が見て取れる。

以前、元産業再生機構の富山氏が、5千円、1万円の化粧品について、「機能材ではなくて感動財である」と説明されていた。そこで同社のコスト構造(広告宣伝費+販売促進費>原価)から考えると、まさにその事が見てとれる。同社が顧客に対して販売しているものは、製品の品質だけではなく、それ以上に同社及び製品のブランド、信頼感、利便性を販売していると考える。一方、競合企業(資生堂、ファンケル)のコスト構造を調べると、ドクターシーラボ社と同様のコスト構造をしている事が分かる。よって、「機能材ではなくて感動財」というキーワードは化粧品業界全体について言えるものであろう。その為、如何にして他社とブランディングの差別化を行うかが重要となるが、その際、同社の「メディカルコスメ」という差別化は有効に働くのではないかと考える。また、感動財を売るという観点から考えると、顧客とのコミュニケーションも非常に重要である。従業員の大半が対面型店舗における販売業務に従事している事から、これらの従業員に対する教育も重要な要素であると考える。

財務面では流動比率が2008年7月期末で300%以上あり、自己資本比率については75%程度あり財務面からの不安はあまり見あたらない。IRからの回答によると、同社は現時点において比較的資金に余裕があることから、特段大きな投資案件が発生しない限り資金調達の可能性は低いとの事。また、M&A及び資本提携などについては積極的に検討していく模様だが、意志決定は慎重に行うという回答を頂いた。

同社のビジネスは、美容、スキンケアという観点から顧客に価値を提供しており、今後も価値を提供し続ける事が出来ると考える。同社は非常に大きく成長しつつある企業であり、将来業績予測が難しい点があるものの、割引率を高めに設定する事で、将来業績の不確かさをバリュエーションに織り込むことが出来ると考える。現時点の予測及び割引率からみて、ほぼフェアバリューである事から、今後の売上実績、株価推移をみて投資判断を行っていけば良いと考える。

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